I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
先日からコツコツと制作を続けていた椿木さん用の浴衣セットと、ついでに作っていたルナとマナと俺の浴衣セットがようやく完成。
初めて作った和装にしては中々の出来映えだと我ながら自画自賛する。
俺が作った浴衣を着て微笑む椿木さんを想像すれば、自然と笑みが零れた。
布地選びの段階から、椿木さんに似合う色味や柄をこだわり抜いて作った浴衣。
実際にコレを身に纏った椿木さんは、きっとすげぇ綺麗なんだろう。
花火大会の日が待ち遠しいな、なんて子供じみた想いを抱くと、まだ一緒に行こうと誘ってもいないことを思い出して苦笑する。
「部長~、いつまでニヤニヤしてるの?!帰る支度すんだならさっさと戸締りして帰ってくださいね!」
声がした方を向けば安田さんが仁王立ちしながらこちらを睨んでいた。
「オウ、安田さん、お疲れ。気を付けて帰ってな。」
俺がそう言えば、安田さんは怪訝そうに眉を顰めて、「……何か最近の三ツ谷部長、いつもニヤニヤしてて気持ち悪い!」と言い残し、勢いよく去っていく。
「ハハッ、去り際に随分ひでぇこと言い残してったなー。」
そんな彼女の様子に一人クツクツと笑う。
パーとぺーにも口元の締まりのなさを指摘されたばかりだったが、遂には安田さんにも気持ち悪いと言われる始末。
椿木さんの告白現場を盗み見してからというもの、俺は、誰に気持ち悪いと言われようともショックを受けないほどには上機嫌だった。
” 私が知ってる三ツ谷隆っていう手芸部所属の男の子は、私がこれまでの人生で出逢った人の中でも、あんなイイ男、他にいる?って思う位には最高にかっこいい男の子なんですよ ”
普段の様子からはまるで想像出来ないキレのある回し蹴り。
それをバシッとキメた姿にも勿論グッと来たが、その後で椿木さんの口から発せられた言葉の数々が、ひどく俺の胸をくすぐった。
” 私のこと本当の意味で満たせるのって、三ツ谷くん以外にいないんじゃないかなぁ? ”
何度も脳内で繰り返したセリフ。
「…少しは期待してもいいってことだよな?」
誰もいない家庭科室に俺の声が響く。
窓から吹く柔らかな風は、夏の匂いを俺の元に連れてくる。
戸締りをして、ヘッドホンを耳に当てれば、流行りのラブソングが流れてきて、俺は幸せな気持ちで家路についた。