I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
この頃、ふと不思議に思うことがある。
何だか最近、タカちゃんのご機嫌がすこぶる宜しい。
一体、何故?…もう少しで夏休みだから?
もしそれが理由だったら、ちょっとかわいいかも。
そんなことを考えてくすりと笑みを零せば、席替えをしてから仲良しの隣の席の吉田君に「何かいいことあった?」と声をかけられた。
「んー?もう少しで夏休みだなぁって。」
私がそう言えば、吉田君は「おーほんとにな!…まぁ俺は部活漬けだけど…。」と苦笑する。
吉田君はサッカー部の爽やか少年。
聞くところ、コーチとやらがめちゃくちゃ怖いらしい。
彼の部活の話をにこやかに聞いていれば、不意に後ろを振り向いて顔を青くした吉田君。
そして、「………あ、ちょっと用事思い出したから隣のクラス、行ってくる。」なんて、その場から立ち去って行った。
「…?」
不思議に思って、急いで教室を出ていった吉田君の後ろ姿を瞳で追う。
吉田君は、今みたいに、急にお腹を下したみたいな顔をして話を中断して急いでどこかにいってしまうことが多々ある。
ひょっとしてお腹激弱とか?
夏になって冷たいもの食べすぎとか?
今度ヤクルトでも買ってきてあげようかな
そんなことを一人考えていれば、隣からギシッと誰かが椅子に腰掛ける音が聞こえた。
横を見遣ればタカちゃんで、こちらを伺いながら微笑んでいる。どうやら本日もご機嫌麗しいようだ。
「どうしたの?タカちゃん。」
何も言わずにただこちらを見つめているタカちゃんに、そう尋ねても、タカちゃんは「んー?」と言うだけ。
「…私の顔に何かついてる?髪の毛のアホ毛が凄いとか?」
もしかしてと顔や髪の毛をぺたぺたと触ってみれば、「ハハッ」とタカちゃんは楽しそうに笑う。
「……ちょっと、タカちゃん。何かおかしなところがあるなら意地悪しないで教えてほしいんですケド。」
流石に何も言わないタカちゃんに、少し不貞腐れたようにそう口を開けば、タカちゃんは「…んー、秘密。」と言い残して、嬉しそうにどこかへ行ってしまった。
タカちゃんの姿にクエスチョンマークを浮かべながら、手鏡を取り出して鏡を覗き込むも、普段と何ら変哲のない私が不思議そうにこちらを見つめ返しているだけ。
「………え~、みんなして一体何?」
私は、ほとほとわけがわからなくて、そう独り言ちた。