I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
『私のこと本当の意味で満たせるのって、三ツ谷くん以外にいないんじゃないかなぁ?』
そう呟きながら悪戯に笑った椿木さんは、未だ唖然としている男に背を向けると、「…あ、今日のことは内緒にしてくださいね?…私、可愛い女の子でいたいんです。」と困ったように笑って去っていった。
俺は再度柱にもたれかかると、顔に全身の熱が集中するのを感じながら、だらしなくゆるむ口元を抑えた。
「……オイオイ、勘弁してくれよ。あんなん言われて喜ばねぇ男なんていねぇだろ。」
俺は暫くその場で何度も、今しがたの椿木さんの言葉達を脳内でリピートさせてから部室へと戻った。
勿論、目の前でプライドをへし折られてボロボロになった男に釘を刺しに行くのも忘れずに。
そうして上機嫌で部室へと戻れば、
「三ツ谷部長!!今日はずーっとご機嫌のようだけど、部活中にどこほっつき歩いてきたの?!?!忘れ物取りに戻ってからもう30分も経ってること知ってた?!?!」
と安田さんの怒号が飛んできた。
「ハハッ、悪かったって。クラスメイトが不良に絡まれてて、放っておけなくてさ。」
頬を掻きながら、怒る安田さんをなだめようと口を開けば、「不良?!また喧嘩?!そんなに喧嘩ばっかりしてて部活動停止にでもさせられたらどう責任とるの?!」とかえって火に油を注いでしまったようだ。
どうしたものかと思って周りを見渡せば、他の手芸部の面々は見慣れた光景にくすくすと笑って楽しんでいるようだった。
オイオイ、笑ってねぇで助けてくれよ。
俺は手芸部のメンバーに心の中でそんな悪態ついて、一人苦笑する。
「ちょっと部長、聞いてます?!?!」
結局、安田さんの怒りはその後収まることはなかったが、安田さんの説教をBGMとして聞き流しながら、俺は部活動終了時刻まで幸せな気分でミシンを動かし続けた。