I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
部室にて、軽やかな麻の生地に手をすべらせていれば、爽やかな風が舞い込んできた。
梅雨明けが宣言されてから数日、次第に夏本番の気候に近づき、外はギラギラと容赦なく日差しが照り付けている。
俺は、火照った身体に心地よい風を肌で感じながら、まち針で仮止めした箇所がズレないよう、慎重にミシンに通していった。
先週の土曜、椿木さんの家で夕食を食べている時にTVに写された去年の花火大会の映像。
大空に次々と打ちあがる大輪の華を見て、ルナとマナと「わー!キレー!」と瞳を輝かせた椿木さん。
そんな椿木さんを横目に、きっと浴衣を着た椿木さんは物凄くキレイだろうな、なんて想いを馳せたことにより今に至る。
色白の椿木さんの肌に映えるだろうと選んだ藤紫色の浴衣生地。
出来上がった浴衣を渡せば、どんな顔を見せてくれるだろうか?
「…喜んでくれっかな。」
俺の誕生日準備を進めている時の椿木さんも同じような気持ちだったのかもな、なんて思えば、自然と胸は温かくなっていった。
しばらくして完成した浴衣を綺麗に畳んでいれば、帯用の生地を教室に忘れてきたことを思い出す。
俺は、昨日椿木さんが口ずさんでいた流行りの曲を口ずさみながら、教室へと足を向けた。
机のわきにかけられていた目的の布地が入ったビニル袋を手に取り踵を返せば、渡り廊下に差し掛かったところで、校舎裏に見知った横顔を見つけて足を止めた。
「………あ?椿木さん、あんなとこで何してんだ?」
一緒にいるのは恐らく一つ上の代の不良グループの中心メンバーの一人。
俺は何となく放っておけなくて、その場を後にした。
死角になる柱を見つけると、俺はそこに背を預けて、様子を見守る。
「凛子ちゃん、急に呼び出して悪いね。……実は、凛子ちゃんのこと前からずっといいなって思ってて、良かったら俺と付き合ってくんねーかなって。」
「…え?」
少し照れた様子で告白の言葉を口にした男と、予想外の出来事だったのか目を大きく見開いて固まっている椿木さん。
「俺ら結構絵になると思うし、こう見えて俺、一途で硬派だし凛子ちゃんのことちゃんと大事にするよ?」
男がそう言えば、椿木さんは困ったように笑った。