I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
プリントを回す時に少し骨ばった指先が軽く触れれば、心臓はうるさく音を立てたし、
休み時間、廊下から教室に戻れば、頬杖をついて窓の外を見つめる綺麗な横顔に視線を奪われた。
少し眠たそうにも見える柔らかな曲線を描いた優しい目元に、男の子にしては長い睫毛と、男の子らしく少し骨ばった横顔の綺麗なライン。キュッと結ばれた形のよい唇。
目の前の彼を構成する一つ一つが酷く尊く特別なモノのように思えた。
視線がぶつかれば逸らすくせに、気付けば瞳だけは彼の後ろ姿を追っていた。
いつもと少し違う不思議な1日は、あっという間に下校時刻を迎えて、
帰り際、気まぐれに家庭科室の前を通れば、ふわりと優しい笑みを浮かべながら後輩の女の子の頭に手をおく彼の姿を見つけて、胸に小さな針でチクリと刺されたような鋭い痛みを感じた。
誰か1人を特別に想うだけで、世界がこんなにも色を温度を持つなんて、
甘く切なく息吹く恋心が、こんなにも身体中を支配するなんて、
タカちゃんに出逢えていなければ、
こんなもどかしい痛みさえも知らずにいたんだね。
” 額 キス 意味 ”
帰り際、携帯の検索欄に、何度目かのそんな言葉を打ちこんだ。
そうすれば前に検索した時と変わらず、
" 額へのキスは、友情、祝福、エトセトラ。状況によって様々な意味をもつ ”
といったような内容が表示されていた。
『タカちゃん。あの夜、君はどんな気持ちでキスなんてしたの?』
そうやって聞くのは簡単だけど、その答えを聞くのはなんだかまだちょっと怖い。
臆病で意気地なしの私は、小さなため息を零すと携帯を閉じる。
そして、いつもと変わらず、母のいる病院へと足を進めるのだった。