I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
けたたましい目覚ましの音に、むくりとベッドから起き上がる。
「………ん゛~~~~~~……今、何時…。」
未だに甲高い音を鳴らし続ける忌々しい目覚まし時計。
眠い目をこすりながら、ベルの音を止めれば、時刻は7:15を指していた。
「………やっばい!…遅刻する!」
ベッドを勢いよく飛び起きると、急いで洗面台へと向かった。
顔を洗って化粧水だけつけて鏡を見れば、うつ伏せで寝てしまった所為か、前髪にはひどい癖がついていた。
人より少し広めのおでこは全開状態。
「…あぁ~、こんな日に限って!」
寝ぐせ直し用のミストをいつもより多めに吹きかければ、少し覚醒し始めた脳裏に昨日の記憶が蘇る。
『ん?忘れ物。』
まだ額に鮮明に残る柔らかな感触。
身体にじっとりとまとわりつくような湿気を帯びた周りの空気。
少し悪戯に微笑んだ顔。
優しさと冷静さの狭間に、ほんの少しだけ熱を秘めたような瞳。
それらを思い出せば、寝起きで低血圧が過ぎる身体には毒なのでは、と思う程、勢いよく全身の血が巡り出すのを感じた。
「………って…今は、そんなこと考えてちゃダメなんだった。」
そう言って、自身を襲う邪念を振り払うように頬をぺちんと叩き、フリーズしてしまっていた手を必死に動かし始める。
支度を急いで終わらせると、常備しておいたメロンパン片手に家を出た。
キーンコーンカーンコーン…
「…はぁ~~~~、間に合ったぁ。」
通学路を全速力で走れば、朝のホームルームを知らせる音が鳴り響くと同時に教室にたどり着いた。
「おー椿木、おはようさん。早く席つけなー。」なんて出席簿で私の頭を軽く叩いた担任は、出席番号順に点呼を取り始める。
乱れた髪の毛を整えながらそそくさと急いで席につけば、不意に後ろから声をかけられた。
「おう、やっと来たか、お寝坊さん。あんまり来ねぇから風邪でも引いたかと思って少し心配したわ。」
「…おはよ、タカちゃん。週明けはやっぱりきついよね、朝。」
高鳴る胸を必死に押さえて普段通りに笑って見せれば「ハハッ、ほんと朝苦手な」なんて、タカちゃんは整った顔で笑っていた。
いつも通りの朝。そう。いつも通りの会話。
だけど、確実に何かがいつもと違う。
そんな朝がそこにはあった。