I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
そう椿木さんに笑いかければ、椿木さんは心底安心したような笑みを浮かべた。
「…よかった…。もし喜んでもらえなかったらどーしよーって、実は今日1日すーっごい不安だったの。だから、タカちゃんのそんな幸せそうな顔見れて、ほんとよかった。」
そして、椿木さんはふぅ~と長く息を吐き出す。
「なぁ、椿木さん。これ、俺の耳につけてみてよ。」
先ほど貰ったピアスを椿木さんの手に渡せば、一瞬驚いた顔をした後、椿木さんは「わかった」と笑った。
俺はその返事に満足気に微笑み、ピアス穴を開けてから気に入ってつけていた小さなリングピアスを外した。
ピアスが外れるのを待っていた椿木さんに、「ん」と左耳を差し出せば、椿木さんの少し冷たい指先が耳に触れる。
そして、続けて金属が通る感触がすれば、椿木さんの指は離れていった。
「どお?」
感想を椿木さんに求めれば、椿木さんは「うん、やっぱり似合う。」と言って花が咲いたように笑う。
感謝を伝えて時計を見れば時刻は23:00を指す頃。
俺は椿木さんとまだ一緒にいたい気持ちに精一杯鞭を打ち、重い腰をあげた。
別れ際、案の定ぐずりだしたルナとマナ両手に、仕方なく椿木さんにマンションの下まで付き合ってもらう。
「ピアス一生大事にするよ。今日はほんとありがとな、椿木さん。おかげで、めっちゃいい日になったわ。」
「気に入って貰えてよかった。また来年もみんなでお祝いしよーね!」
「ん?次は椿木さんの誕生日っしょ。期待しててよ。」
別れ際そう言えば、椿木さんは嬉しそうに笑った。
じゃあまた、と別れを告げ、ルナとマナを家の中にいれて振り向けば、椿木さんが手を振って微笑んでいた。
俺は、名残惜しくてもう一度、彼女の元へと向かう。
「どうしたの?」
「…ん?忘れもの。」
そして、不思議そうな顔の彼女の額に優しく口付ければ、椿木さんは顔を真っ赤にして固まっていた。
「ハハッ、身体冷えねぇうちに家入んな。」
したり顔でそう言えば、椿木さんは額を押さえ「お、おやすみ!」と言って駆けて行く。
俺は幸せな余韻に浸りながら家の扉をくぐった。