I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
教室の外でパーとぺーと話をしていれば、キョロキョロと誰かを探している女子がいた。
誰を探しているのかと声をかければ、椿木さんのようだったので、教室の中心でバカ騒ぎしている男たちの陰に隠れてしまっていた椿木さんに声をかけにいく。
そうすれば、椿木さんは何やら雑誌を真剣に読んでいるようだった。
そう言えば先日も同じような光景を目にしたな、なんて思いつつ、物凄い集中力を発揮していて俺の声なんか全く耳に入っていない椿木さんの元へと向かう。
「椿木さん、友達、呼んでっけど。」
前の席に腰掛け、そう教室のドアの方を指せば、「わわ、三ツ谷くん?!…え、あ、ほんとだ!ありがと!」と言って、大きい目を1.5倍くらい大きく見開いた後、指の指す方を見てパタパタと走っていった。
彼女の机に伏せられた本を開く。
「……『誰でも出来る!簡単!絶品ごはんのおかず』。……料理でもはまってんのか?」
ペラペラとページをめくれば、ルナマナが喜びそうなメニューがいくつか載っていて、思いの外、読み込んでしまう。
「…三ツ谷くん?」
しばらくすると、椿木さんが帰ってきて、不思議そうにこちらを覗き込む。
「あ、悪ぃ。中々勉強になること載ってたから、つい。」
そう言って本を返せば、椿木さんはまた不思議そうな顔をした。
「三ツ谷くんって、ひょっとして、お料理も得意なの?」
「あー、得意ってわけではねぇけど、うち、おふくろ帰ってくんの夜中でさ、妹二人の面倒とか家事とか俺がしてんだよね。そんなこったもんは作れねぇけど、それなりには。」
「えー凄いなぁ…じゃあ今度色々教えてくれない?!私、お料理も家事もまだまだ勉強中で…」
椿木さんは瞳を輝かせながら、ニコニコと笑った。
「おー俺でよければいつでも。」
そう言えば、益々嬉しそうに椿木さんは「やったぁ!」と言って笑った。
なんか喜び方が犬みたいな子だなと俺までつられて笑みが零れる。
「……あ、やべぇ、パーとぺーのこと放置してた。ちょっと俺行くわ。」
そして、先程、椿木さんを呼びに来るまで一緒に話をしてた2人のことをふと思い出し、椿木さんの席を後にした。
勿論、その後、遅いと恨み言を言われたのは言うまでもない。