I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
「うん。放課後は吹奏楽部が音楽室使ってるからお昼休みだけ。」
そう言って、はにかむ彼女。
俺らがバイクいじってる時と同じような顔をした彼女は、本当にピアノが好きなんだなと思う。
「なるほどね。椿木さん、部活は?」
「私は外のレッスン通ってたから入ってないんだ。三ツ谷君は手芸部だよね?」
「おー話したことないのに、よく知ってんな。」
想像以上に自分が彼女に認知されていることに驚けば、椿木さんは口に手をあててクスクスと笑った。
「はは、確かに喋るの始めてだ!でも不良少年が手芸部で真剣な表情してミシン動かしている姿は、入学当初、結構話題になってたかな。」
「…あー、そういうこと。なんか恥ずかしーわ。」
そんな噂になってたとは、と苦笑する。
確かに入部当初は部員にもビクビクとされてたし、自分は中々イレギュラーな存在だったのだろう。
それでも、椿木さんは、入学当初から俺のことを知ってくれていたというわけで、その事実に心なしか頬が緩む。
そんな他愛もない話をしていれば、あっという間に時は過ぎていたようで次の授業の開始を知らせる予鈴がなった。
「あ、悪ィ。せっかくのお楽しみの時間、潰しちまったな。」
そう言って謝罪すれば、椿木さんはブンブンと手を振っては眩しい笑顔でニコッと笑った。
「ぜーんぜん大丈夫!三ツ谷くんとお話出来て楽しい時間だったよ!」
その返答に少しこそばゆくなって、俺は頭をポリポリと搔いて「そっか」と笑った。
何か調子狂うな、なんて思いながらも、悪い気はしない。
その後、教科書を置いてきたことを伝え、椿木さんに見せてもらうことになったのだが、どうやら椿木さんは歌もめちゃくちゃに上手いことが判明した今日だった。