I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
心落ち着く優しい香りが鼻をくすぐり、凛子はまだ少し重たい瞼をうっすらと開く。
「…あれ…タカちゃん……?」
暖かい日差しと穏やかな風が心地よくて少しだけ眠るつもりだったが、あれから、一体どれくらいの時間が経過したのだろうか?
目を開けば、少したれ目の優しい色を帯びた瞳と視線がぶつかる。
「おう、おはよ。」
ピアノにもたれたまま、暫くぼーっとしている凛子の様子を見て、ふわりと微笑む三ツ谷。
「……ん……おはよ、タカちゃん。」
壁に立てかけられている時計を見れば、次の授業の予鈴がなる5分前。
両手をぐうーっと伸ばして欠伸をすれば、変な体制で寝てしまったせいか少し、首と腰がズキズキと痛んだ。
そして、身体を起こしたことで、パサッと小さな音を立てて背中から滑り落ちる何か。
何だろう、と凛子が後ろを振り返れば、椅子の背もたれに三ツ谷のセーターと思われるものがかかっていた。
「…これ、かけてくれたんだね。」
まだ眠りから完全に覚めていない凛子は、まだ温もりのこもったセーターを手に取ると、その中にギュッと顔を埋める。
「…へへ…タカちゃんのにおい……しあわせな香り……。」
いつもより数段とろんとした甘い声と、自分の上着を抱きしめながら幸せそうに微笑む凛子の姿。
三ツ谷の顔は瞬時に熱を持つ。
「……そんな可愛いこと言われっと、困る、んだけど…。」
そんな三ツ谷の理性と欲望の攻防戦など、夢現にまどろむ凛子は知る由もない。
それから数分後、ようやく本格的に目を覚ました凛子。
「うわぁ!!!タカちゃん、ごめんね!!!私、ほんと寝起き最悪だって家族によく言われてて……。カーディガンも皺皺になっちゃうところだったね、ほんとごめん!!!」
「ハハッ、そんな謝んなって。……まぁ思春期真っ只中の健全な俺にとっては少し刺激的ではあったけど。」
「…~~~~~ッッ!!!」
ペコペコと謝る凛子に三ツ谷が悪戯な笑みを返せば、凛子の顔はたちまち赤く染まる。
…多分いや絶対、タカちゃんに変態だと思われた…ど、どうしよう…………
若干ずれた解釈をしては一人テンパる凛子。
真っ赤な顔で眉根を下げてあたふたしている凛子を、三ツ谷は楽しそうに眺めていた。