I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
「なぁ、お前らさっき椿木さんと何話してたんだ?」
今度の集会の話をした後で、俺がそう口に出せば、目を見合わせる2人。
「……そ、それは、椿木さんが俺らのサインが欲しいっていうからよー!し、仕方なく最高なやつプレゼントしてやってたんだよ!」
「そ、そうだぞ、三ツ谷。俺らはアイツに頼まれてW林の時のイカした奴を特別に施してやったんだよ!」
ぎこちなく早口でまくしたて始める2人。
「は?サイン…?」
サイン貰って、顔真っ赤にして照れる奴なんているか?
芸能人じゃあるまいし。
「…んなわけねーだろ、つくならもっとマシな嘘つけアホ。」
「あぁ゛?パーちんの脳みそはスポンジだぞ?!」
俺は頑として口を割ろうとしない2人に痺れをきらして、椿木さん本人に話を聞きにいくことにした。
はぁ、この間の八戒といい、コイツらといい、一体どーしたってんだ。
まぁ、椿木さんも含めて、俺に何かを隠しているのは間違いねぇ。
「……椿木さん?」
いつも聴こえてくるはずのピアノの音が、渡り廊下を渡っても聴こえて来ないことに疑問を抱きつつ音楽室に足を踏み入れれば、ピアノにもたれてすやすやと眠っている椿木さんがいた。
よほど疲れていたのか声をかけても気がつかない椿木さん。
開け放たれた窓から吹き込む暖かな風が、綺麗な彼女の髪を時折ふわっと攫う。
陽だまりの中に沈んで気持ちよさそうに眠る椿木さんは、どこかこの世のものとは思わせない儚さと美しさをたたえていた。
俺はそんな彼女の姿に暫く見惚れたあと、この一瞬を永遠に残しておきたくなり、ポケットから携帯を取り出す。
パシャッ
乾いたシャッター音が響き、撮れた写真を見て頬を緩めた。
着ていたセーターを脱いで、椿木さんの肩にかけてやれば、椿木さんは「…ん、タカちゃん…」と嬉しそうに口を緩めては身をよじる。
その色っぽい仕草に一瞬ドキッと胸を高鳴らせるも、続けて聴こえた「……マヨネーズ…」という言葉に俺は思わず吹き出した。
「ハハッ、どんな夢見てんだよ。」
当初の目的は少し保留。
俺は、暫くこうして椿木さんの可愛い寝顔を独占することにした。
彼氏でもない奴が言うのもおかしな話だが、存外、俺は独占欲が強いらしい。