I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
ここ数日、椿木さんの様子が少しおかしい。
携帯を見つめて嬉しそうに頬を緩める時が増えたし、休み時間に誰かと電話しては頬を染めて何やら嬉しそうに話しをしている時もある。
それに、普段の椿木さんなら授業中に居眠りするなんてことも今のところなかったはずだ。
俺は暇な国語の授業を右から左に聞き流しながら、目の前でコクリコクリと頭を揺らしている椿木さんの姿を眺めた。
そんな些細な変化に一々気が付いてしまう俺は、きっと、かなり重症だ。
はぁ
誰にも気づかれないように小さなため息を一つ。
先ほど廊下で見た椿木さんの笑顔を思い出せば、モヤモヤと自分の中に不快な感情がうごめき出す。
もしも、携帯の向こうで椿木さんに笑顔を向けられている相手が男だったら、
もしも、その相手と椿木さんが夜な夜な電話してるなんてことが万に一つでもあれば、
正直、めちゃくちゃ妬ける。
そんな俺の事情など知る由もない目の前の彼女は、
机の端に置かれた肘が滑り落ちたことに驚いてビクッと一瞬背筋を伸ばしたかと思えば、また暫くすると頭で一定のリズムを刻んでいる。
呑気なもんだな、なんて、俺は彼女の様子に苦笑した。
昼休みになれば、例の如く、何冊かの楽譜を抱えて音楽室へと足を運ぶ椿木さん。
今日の午後一の授業は音楽。
俺もパーちんとペーやんのところに顔を出してから音楽室に向かうかと教室を出る。
すると、少し先に、パーとペーと一緒にいる椿木さんの姿を見つけた。
小さなカードのようなものをパーとペーから貰って嬉しそうにはにかむ椿木さん。
パーとペーが椿木さんに何かを告げると、椿木さんは先ほど受け取ったカードのようなものを見ては顔を真っ赤にして、2人のことをバシバシと叩く。
パーとペーは楽しそうにケラケラと笑い、椿木さんは少し困っているような照れているような微妙な表情を浮かべながら、2人に別れを告げて、廊下を駆けていった。
「……え、今の何。」
暫く椿木さんの後ろ姿を見ていれば、俺に気付いたパーとペーが向こうからやってきた。
「おー、三ツ谷ー。」
「休み時間なら、アイツいねぇから気楽でいいな!まったく放課後になると毎回邪魔してくるからよー。」