I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
「…そしたら…何でかわかんないんだけど、タカちゃんに逢いたくなって…。こんなしょーもない理由で逢いに行ってごめん。」
凛子も三ツ谷の隣に並ぶと、美しい夜景を見つめた。
「我ながらめちゃくちゃめんどい、ただの情緒不安定じゃんね」
そして闇夜にそう呟くと、自嘲するようにハハッと乾いた笑みを零した。
そんな凛子の姿を横目で見遣ると、三ツ谷は凛子と同じように工業地帯の灯りを眺めながら、静かに口を開く。
「………別に、いいんじゃねぇ?」
生暖かな海風が2人の間にふわりと舞う。
「……え?」
凛子が三ツ谷の言葉に顔を上げれば、遠くを見つめながら微笑む三ツ谷の姿があった。
「人間誰だって、一人じゃどうしようもねぇ時ってあんだろ。少なくとも俺は、そんなことでめんどくせぇとか思わねぇよ。…なんてゆーか、椿木さんは、もっと人に甘えることを覚えてもいいと俺は思うんだよネ。」
長い睫毛の奥から覗く少し紫がかった瞳には、美しい灯りの数々が映り込む。
「……辛い時は、今日みたいにもっと俺を頼んなよ、椿木さん。」
そう言って凛子に笑いかける三ツ谷。
三ツ谷から放たれた言葉一つ一つが、凛子の心奥底に閉じ込められていた孤独や悲しみを優しく解きほぐしていく。
最後に誰かにこんなに温かい言葉を投げかけてもらったのはいつだろう?
凛子は柔らかな笑顔に瞳を捕らわれ、暫し動けずにいた。
「ハハッ、何泣いてんだよ。俺そんないいこと言ったぁ?」
知らないうちに零れていた涙をゴシゴシと拭えば、後から後から大粒の涙が凛子の顔を濡らした。
「……ん、ちゃんと泣けんじゃん。今まで一人で辛かったな、椿木さん。」
三ツ谷はそう言うと、凛子を自身の胸へと優しく抱き寄せ、妹達をあやすように、ぽんぽんと凛子の頭を撫でる。
凛子は三ツ谷の行動に内心かなり驚くも、三ツ谷の胸から聞こえてくる穏やかな心音、自身を包む優しい温もり、三ツ谷特有の少し癖のある甘い香り、それら全てが凛子の心をひどく安心させた。
「…タカちゃん、いつもありがと。」
「んー?別に大したことしてねーよ。」
波打つ水面には、幸せそうにはにかむ2人の姿が映し出されていた。