• テキストサイズ

I don’t want to miss a thing.

第1章 …I'll be there for you.



東卍の面々と解散した後、「…たまには寄り道して帰るか!」とニカッと眩しい笑顔で笑った三ツ谷。

凛子は三ツ谷の運転するインパルスの後ろで、自分より一回り大きな背中に身を預けていた。

行先を問えば「ん、着いてからのお楽しみな」と目を細めて優しく笑った眼前の男。

少し湿気のまじった風に乗って運ばれてくる今では嗅ぎなれた少し癖のある甘い香り。

深く深呼吸をして全身で三ツ谷の香りを感じれば、つい先刻まで感じていた漠然とした孤独や虚無感が自然と和らいでいく。

まるで陽だまりの中でうたた寝をしている時のような心地よさに、凛子は幸せそうな笑みを浮かべて瞳を閉じた。


どれくらいそうしていたのだろう、
潮の香があたりを包み始めたことに気が付き、凛子はそっと瞳を開ける。

すると、眼前には、この世の不満や孤独を全て飲み込んでしまったかのような闇夜と色鮮やかなまばゆい輝きを放つ工業地帯の灯り、それからそれらを映し出してはキラキラと儚く揺れる水面が織りなす幻想的な世界が広がっていた。

「…きれー……。」

そんな非現実的な目の前の景色に凛子が目を大きく見開いていれば、

「ん、久々に来たけどやっぱいいな。」

と三ツ谷がニカッと笑う。

「少し散歩しようぜ。たまには海風も悪くないっしょ。」

バイクを止めて、歩き出した三ツ谷の少し後ろを凛子もゆっくりと歩く。

ただただ穏やかな時間が2人の周りで流れ過ぎる。

時折聴こえるザザァー…という波音が耳に心地よくて、凛子は目を細めた。

「…で?何かあった?」

暫く無言で防波堤に沿って2人で歩いていれば、三ツ谷がふと口を開く。

「椿木さんの方から訪ねてくるなんて珍しいじゃん」なんて、歩みを止め、チラリと後ろを振り向いた三ツ谷は優しい笑みを浮かべていた。

「……ううん、何も。…何か、色々考えてたら急に色んな感情が溢れてきて止まらなくって、一人じゃどうしようもなくって…すごい寂しくて……。」

凛子が暫しの沈黙のあとで、ぽつりぽつりと話し始めれば、三ツ谷は防波堤に軽くもたれかかり、静かに凛子の声に耳を傾けた。

/ 287ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp