• テキストサイズ

I don’t want to miss a thing.

第1章 …I'll be there for you.



「ねぇねぇお母さん、今日はお天気もよくてすごい気持ちいい日だったよ。凛子がいる間、少し窓開けておこうか。」

凛子が母親の病室の窓を開ければ、爽やかな風が吹き込んだ。

「今日ね、久しぶりにお母さんが好きだった曲、弾いてみたんだ。そしたら久しぶりだったからか上手く指回んなくてさー、あんまり上手く弾けなくてちょっと悔しかったな。」

凛子はそう言うと、携帯で録音したビデオを再生する。

「聞こえる…?ほら、また失敗した。」

くすくすと笑う凛子の笑い声が病室に響く。

「レッスンもやめて練習少しサボってたからかな。まぁ次はもっと練習しておくから、楽しみに待っててね。…それから、これは三ツ谷くんの妹のルナちゃんとマナちゃんが家に来た時にピアノ触ってる時の動画。一緒に弾きたいっていうからね、きらきら星教えてあげたら、すぐに覚えてさ。三ツ谷くんに似て、凄い器用なのかも。ふふふ、何回見てもすっごい可愛い。」

凛子が自身のカメラロールに保存されている動画を開けば、「凛子ちゃん、見てて!」「マナも弾く!」と言って小さな指で鍵盤を叩く少女たちの姿が映し出された。

そして、「すごい!覚えるの早いね~!」と凛子の声がすると、きらきら星のワンフレーズを無事弾き終えた姉妹が、ニカッと振り向いて笑う。

「……ユキも生きてたら、3人で仲良く遊んでたかな……。」

夕方になり、オレンジ色と紺色が混ざり合った世界が広がる窓の外を見つめ、凛子はぽつりと呟く。

「…最近ね、たまに、ルナちゃんとマナちゃんと一緒にユキが笑って遊んでる夢を見るよ。夜になると、タカちゃんとお姉ちゃんが血だらけで帰ってきて、お母さんと私は2人にお説教とかしながら2人の手当てとかしてさ。お母さんが作った美味しいご飯食べて、みんなで他愛もない話して大笑いしてさ。

……こんな夢見たって、もうどうしようもないのにネ。」

凛子は一人寂しく笑う。
そして、優しい風が凛子の髪をさらうと、瞳を閉じた。

『 俺の前では、あんま強がんなよ。 』

そうすれば、いつかの夕暮れに真剣な眼差しでこちらを見つめた三ツ谷の姿が瞳の奥に浮かんでは消え、凛子の胸をキュウッと締め付ける。
/ 287ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp