I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
椿木さんの家で夕飯をご馳走になった俺は、妹2人を連れて帰宅するとすぐ浴室へと向かった。
返り血で汚れてしまった特攻服を脱ぎ捨て、身体の汚れを落とすべくシャワーの蛇口をひねる。
熱いお湯が全身を打てば、先ほど椿木さんに手当てしてもらった箇所がズキンと痛んだ。
どうやら自分が思っていたよりも、傷が深かったらしい。
俺は今日一日の汚れを落とすと、少しぬるくなった湯舟へと浸かる。
少し眠気を誘う穏やかな水温にまどろんでいれば、ピチャンッ…ピチャンッ…と、時折、天井から水滴がしたたる音が耳に心地よく響いた。
『 タカちゃんのこと、大事に思ってるから 』
椿木さんが不意に口にしたストレートな一言。
俺を心配そうに見つめる真っすぐな瞳。
暫くぼーっと時が流れるのを楽しんでいれば、先刻の椿木さんの言葉や仕草が不意に脳裏に浮かんできて、ようやく静まり返った心臓がまたもやドクンドクンッと脈打ちだす。
「………あれは反則だろ。」
きっとそんな言葉を悪気もなく平然と述べた当の本人は、その一言によって俺がどれだけ翻弄されているかなど、予想だにしていないのだろう。
東京卍會 弐番隊隊長ともあろう奴が聞いて呆れるな、なんて俺はまた一つ大きな溜息を吐いた。
一度自覚してしまえば、恋心というやつは、なんて厄介なものなのだろうか。
『 今度、嫁も連れて来いよなー 』
ふと、ドラケンの去り際の言葉を思い出す。
八戒の時にも同様のことを思ったが、信頼している仲間と椿木さんが仲良くなるのは喜ばしいことだ。
しかし、
万が一に、椿木さんが他の誰かに惚れてしまう可能性は?
逆に、あんな美人で器量のいい椿木さんのことだ。
東卍の奴らが惚れないという保証はどこにある?
あの花が咲いたような笑顔が、別の誰かに向けられているなんて、思い浮かべただけで不快な気持ちが俺を襲う。
自分が見つけた宝物を誰にも見つからない場所に隠そうとする子供のような、そんな幼稚な感情が自分の中にあったことに内心驚く。
そして、この独占欲とも言える醜い感情をどうしたものかと、俺はずるずると浴槽の中に顔を半分ほど沈めて頭を抱えた。