I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
「………ちょっと、タカちゃん。流石に、そんなに見られるとやりにくいんですけど…。」
暫くすると、椿木さんが頬を染めて少し困ったように俺の瞳に抗議してくる。
「え?あぁ…悪ぃ。人の世話すんのは慣れてっけど、自分が世話されんのってあんま慣れなくて。」
流石に、『風呂上りの椿木さんが可愛くて』なんてことは言えなくて、俺は適当な理由を言っては誤魔化す。まぁこれも本心ではあるので全くの嘘ではない。
そうすると、椿木さんは「…そっかぁ、でも、まさか熱は出てないよね?」と言って俺のおでこを触り、「うん、それは大丈夫か。よかった。」と言ってふわりと笑った。
「……私のお姉ちゃんも男勝りな性格でね、よく男の子とも喧嘩してきてさ、その度にお母さんと一緒にこうやって手当してた。」
椿木さんは絆創膏を貼ると、まるで当時を懐かしむかのように俺の頬を小さな手のひらで撫でた。
風呂上りにも関わらずひんやりとしている椿木さんの手の冷たさが腫れた頬には気持ちがいい。
しかし、頬の冷たさとは反対に、俺の体温は、どことなく色っぽさを醸し出している椿木さんの姿によって上昇していくように感じる。
「……へえ。椿木さんと違って、随分、やんちゃな姉ちゃんだったんだな。育ちいいだろうに。」
苦し紛れにそう言って笑えば、椿木さんは「はは」と言って困ったように笑う。
「それなりに何か理由があって喧嘩してるんだろーし、一概にダメとは言えないけど……それでも、やっぱり心配だよ。」
俺の両頬を両掌で包むと、椿木さんは、俺の瞳を色の薄い透けてしまいそうな瞳で真っすぐに見つめた。
「タカちゃんのこと、大事に思ってるから。」
小さな口から続けて発せられた真っすぐな言葉たちは、綺麗な澄んだ瞳を通り、俺の心を強く刺激する。
トクンッ…トクンッ…と激しく脈打つ胸の鼓動は、今すぐにでもその小さな身体を抱きしめてしまえと俺自身に訴えてくるかのようだ。
過去に初めて家出をしてお袋に抱きしめられた時に感じたような、少しの後悔ととめどなく溢れ出す安心感。
そして、彼女を心の底から『愛しい』と想うひどく優しい感情が俺の胸を支配する。
椿木さんは最後に「どうか無茶だけはしないで」と、心配そうに微笑んだ。