I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
「おい、三ツ谷。今度、嫁も連れて来いよなー。」
ようやく解放されて、無駄に疲れたなと思いながらバイクに跨れば、帰り際のドラケンがニヤリと笑みを浮かべながらこちらに声をかけてくる。
「うっせ、お前らには絶ッ対ェ紹介してやんねぇ。」
俺が笑ってそう言えば、みんな「つまんねー」だとか「今度あいつの学校顔出してみっか」だとか言いながら、方々に散っていく。
そんな仲間の様子を見送り、俺も、バイクのエンジンをふかした。
あー、思いの外、帰りが遅くなっちまったな、なんて思いながら帰路を急いでいれば、少し火照った頬に冷たい風が心地よく吹き付ける。
アイツらに茶化されて咄嗟に否定はしたものの、
きっと、俺がいつからか椿木さんにどうしようもなく惹かれているのは紛れもない事実なんだろう。
思い返してみれば、
椿木さんの笑顔を見て何よりも心満たされる自分がいたり、
椿木さんの強がる小さな背中を見て守ってやりたいと思う自分がいたり、
椿木さんの明るい声を聴けば、何よりも安心する自分がいたり、
初めて出逢ったあの日からずっと、俺は、椿木さんに心惹かれているのかもしれない。
疲れ果てた今だって、早く椿木さんの柔らかな雰囲気に癒されたくて、家路を急いでいる自分がいる。
「はは、情けねぇな、俺。」
恋心を一度認めてしまえば、それは俺の胸をきゅうと締め付けた。
『タカちゃん』
そう言って笑う椿木さんの優しい笑顔が、頭の中に浮かぶ。
誰かのことを「誰にも譲りたくねぇ」なんて自分が思うようになるなんて、予想だにしていなかった。