I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
新学期が始まり、早一週間が経とうとしていた。
全体的に新しいクラスにも各々が慣れてきたように思えるこの頃、椿木さんにも何人か友達が出来たようで、休み時間や移動教室は女友達といることが増えた。
そして最近彼女に関してわかったことが一つある。
彼女は、中々のあがり症のようで、授業で自分が指される番が近づきだすと、めちゃくちゃソワソワし始める。
そして、発表が無事に終わるとフゥーと大きく息を吐き出して、緊張して血が上ったのか白くて小さな手でパタパタと顔を仰ぐ。
後ろから見てても耳が真っ赤なのがわかるので、正面から見れば尚更真っ赤なのだろう。
たかが授業の質問くらい、間違えたってどうってことないのに、すげー真面目なんだなと思って少し微笑ましくなる。
ルナ達もこのくらい真面目に授業に臨んでくれてればいいんだけどな、なんて事もたまに思ったりする。
それから、給食を食べ終わると、椿木さんは数冊の本を持って、そそくさとどこかへ足早に姿を消す。これは始業式から相変わらずなようだった。
今日も変わらず脱兎のごとく教室を後にする椿木さん。
彼女の後ろ姿を見届けてから、俺も仲間の特服とルナとマナのほつれた服をいれた袋を手に部室へと向かった。
放課後は主に新入生の面倒を見てやりたいため、自分のやりたいことを先に片づけようと思ってのことだった。
それぞれ服のもつれたところを、縫い合わせていく。
もう手慣れたその作業を淡々とこなしていれば、ポロンポロン…とピアノの優しい音色が風に運ばれてきた。
「…あ、次、音楽じゃん。教科書持ってくりゃよかったな。…まぁ隣のやつに見せて貰えばいっか。」
音楽室は手芸部の部室の一つ上の階にある。
担当教師でも弾いているのだろうか?
ピアノの旋律を聞きながらの裁縫なんて、中々平和でいいものだな、なんて年寄りじみたことを考えては、また、ふと笑みがこぼれた。