I don’t want to miss a thing.
第2章 …Please, don't stop the love.
「オイオイ、何でってそりゃ俺の台詞だろ。耳までそんな真っ赤にしちゃってさ……凛子は俺が風呂入ってる間に一体何を考えてたわけ?」
なんて言うと、タカちゃんは挙動不審な私を面白がるように、ジリジリと私の元まで足を進める。
「……えっ…と……その…」
優しく垂れさがった瞳の奥に潜む獣のような視線。
心の内側を探られているかのような錯覚に陥って、私は思わず後ずさる。
「………あ?何?聞こえねぇって。」
けれども、タカちゃんがこちらに歩み寄る足を止めることはない。
まるで肉食動物に狙われた小鹿のような心持ちの私。
タカちゃんはと言えば、この状況を心底楽しんでいる、それが全身から伝わってきて私は一人また唾をのんだ。
「……~~ッ!?」
ニヤニヤと悪戯な笑みを浮かべるタカちゃんから遠ざかろうと試みるも、気が付けば、あっという間に壁際まで追い込まれてしまう。
「…いや…その……えっと……ふ……服!そうお洋服!……タカちゃん、スウェットの上も着ないと風邪…ひいちゃうよ?」
視線をあちこちに泳がせながら、苦し紛れにそう口を開けば、両足の隙間に触れたタカちゃんの履いてる柔らかいスウェットの肌触り。
そして、
ふわりとシャンプーの良い香りが鼻を霞めると同時に、トンッと顔の脇に置かれたタカちゃんの逞しい腕。
「……えっと……その…タカちゃん?」
「………ん?」
「…ど、どいてくれません?」
状況を整理すれば、私の両足の間にはタカちゃんの右足が入り込んでいたし、顔の右脇にはタカちゃんの左腕、それから頬にはタカちゃんの大きな右手が添えられていた。
そんな漫画みたいなシチュエーションに私の胸は早馬が駆けるように騒々しく高鳴っていたし、
「ん、いいけど。でも、それは凛子がちゃんと教えてくれたらな。」
なんて言って私の頬を撫でたタカちゃんの悪戯な瞳には、今じゃもう薄っすらと甘さまで含まれていて、私は気絶寸前。
いつ心肺停止になっても何もおかしくないような、絶対絶命、そんな状況。
それに、
「…男にも引けない時があるかんな。」
なんて。
……あれ、何かこれデジャブ?じゃん?
私はついこの間の出来事を想い返すと、過去の自身の行動をほんの少しだけ恨んだりした。