I don’t want to miss a thing.
第2章 …Please, don't stop the love.
「…………。」
カタカタカタ……
ミシンを止めると、鼻歌交じりに布に針を挿している眼前の男のことをジィッと見つめた。
暫くそうしていれば、私の視線に気づいた眼前の男、もとい三ツ谷部長が顔を上げる。
「……あ?どうしたよ、藍沢さん。ひょっとして俺の顔に何かついてる?」
「いや、何も。」
「……じゃあ、どっか具合悪いとか?」
「いや、別に。」
暫くそんなやり取りをしていれば、三ツ谷部長は困ったように苦笑した。
「………じゃあ、何だ?さっきからすげぇ視線感じんだけど。」
「…いやぁ、三ツ谷部長ってわかりやすぅーって思って。」
私がそう言えば、察しのいい三ツ谷部長は、一瞬目を瞬かせた後で照れたように頭を掻いた。
「…悪ィ、そんな俺態度に出てる?」
「ハイ、そりゃもうこっちまでハートマークが飛んでくるくらいには。それに手芸部の中でも、新学期入ってから雰囲気が丸くなったなんて話題になってるし、三ツ谷部長。」
マジか。なんて言って、嬉しそうに布に視線を落とした三ツ谷部長。
反対に私は大きな溜息をつくと、ミシンをカタカタと再度動かし始めた。
まぁでも、この人に笑顔が戻ってよかったななんて。
”…あのね、ミズキちゃん。その…タカちゃんとちゃんとお付き合いすることになりました!”
なんて、年明け直ぐ、アノ日のお礼かつお詫びなんて呼び出されたカフェで聞いた凛子さんの言葉を思い出しては、私は頬を緩めた。
そうすれば、ガラガラと控えめに開く扉の音。
反射的にそちらを見れば、ヒョコッと小さく顔を覗かせた凛子さんと瞳があった。
笑顔でこちらにヒラヒラと手を振る凛子さん。
「…ちょっと、アナタ!今部活中なんだけど、一体、何の用!?」
そして、そこへ、それを見つけた副部長が登場する。
「…えっと…その…タカちゃ…いや、えっと部長の三ツ谷くんの忘れ物、届けに来たんだけど……」
副部長の気迫に凛子さんがたじろいでいれば、騒ぎに気付いた部長が席を立つ。
「おー、安田さん、そんな威嚇すんなって。…どしたの、凛子。こっちまで来るなんて珍しいじゃん。」
三ツ谷部長の姿を確認すれば、凛子さんは「…タカちゃん!」なんて、また瞬時に顔を輝かせた。