I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
「…タカちゃん、遅ぇなぁ。」
凛子が校門をくぐれば、校門にもたれて携帯を眺める長身の男子がいた。制服を見るところ他校の生徒のようだ。
「…ん?それ、三ツ谷君?」
しかし、すれ違い様、見慣れた横顔が目に止まり、凛子は思わず、男の子が手に持っていた携帯を覗き込む。
「やっぱり三ツ谷くんの横顔だ!…ねぇねぇ、もしかして、柴八戒くん?三ツ谷くんに用事あるなら、私呼んでこようか?」
凛子が笑顔で少年に質問を投げかける。
しかし、少年はピクリとも動かない。
「……ねぇねぇ聞こえてる?…おーーーいっ!」
自分が小さくて視界に入っていないからかと思い、凛子は手を大きく伸ばして、少年の顔の前で手をぶんぶんと降る。
それでも全くこちらに反応しない少年に、「ひょっとしてこれはフルシカトというやつ…」と凛子が諦めかけたその時、背後から聞きなれた声が降ってくる。
「おーい、椿木さん。こんなとこで何やってんの?」
「あ、三ツ谷くん!」
凛子は後ろを振り返り、不思議そうな顔をして歩み寄ってくる三ツ谷と顔を合わせた。
「この子の携帯の待ち受けが三ツ谷くんだったから、もしかして噂の八戒くんかなぁって思って話しかけてみたんだけど…全然反応がなくて…。」
凛子が少し悲しそうに三ツ谷に事の状況を説明すれば、三ツ谷は「あー、こいつ、女の子に話しかけられると固まんだよ。悪く思わないでやって。」と言って苦笑した。
そして、三ツ谷が「オイ」と脇腹を小突くと、八戒は「あ、タカちゃん!おっせぇよー!」と口を尖らせて不満を漏らし出す。
そんな様子を眺めて、凛子は不思議なこともあったもんだと思いながら、くすくすと笑った。
「じゃあ、タカちゃん、また後で。八戒くんもまたね!」
暫し2人の様子を伺った後、凛子は2人の邪魔をしないよう別れを告げ、病院へと足を向けた。
一方、凛子が去った後すぐの三ツ谷と八戒
「……え、今、タカちゃんって言った。」
「は?タカちゃん何言ってんだよ、俺、いつもタカちゃんって呼んでんじゃん!」
呆然と凛子の後ろ姿を見つめる三ツ谷と、全く自分のことを相手にしない三ツ谷に不満を漏らす八戒の姿があった。