I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
早いもので進級してから一月半が過ぎようとしていた。
三ツ谷との思わぬご近所生活が始まってからというもの、凛子はとても充実した日々を送っている。
まず、朝が苦手な凛子は、基本的に遅刻ギリギリの時間に家を出る。これは中学入学時から変わらず。
そして、少し走って通学路の半ば辺りに差し掛かったところで、少し紫がかった見慣れた銀髪を見つける。
凛子が三ツ谷の隣に辿り着いて「三ツ谷くん、おはよ!」と言えば、息を切らして髪の毛を整える凛子の姿を確認した三ツ谷に「椿木さん、ほんと朝苦手なー。おはよ。」とか言って笑われる。
それからは、他愛もない話をしながら教室へと2人で向かう。
授業中に発言回がまわってきて解答を終えた後は、たまに、後ろに座る三ツ谷にシャーペンでつつかれて、” 顔、真っ赤 ”と小声でからかわれる。
昼休みになれば、変わらずグランドピアノのある音楽室へと足を運ぶ。次の授業が音楽の日には決まって、三ツ谷が少し早めに顔を出す。人前で弾くのは緊張するので実は苦手だが、三ツ谷が毎度楽しそうに凛子の演奏を眺めているので、たまにリクエストなどを受けながら奮闘する。
平日は授業が終われば、母の病院に寄ってから帰宅する。
病院の帰り道は、三ツ谷が必ずといっていいほど、バイクで迎えにきてくれるようになっていた。
凛子はいつも申し訳なく思うも、心配性な三ツ谷の申し出に毎度負けて、結局、バイクの後ろにまたがることになる。
そして、帰宅後は、2人の気分で週に何度か三ツ谷家と一緒に賑やかに夕飯を食べ、可愛い妹達と遊び、三ツ谷が集会など東卍関係で不在となる際は、凛子は子守りを進んで引き受ける。
家族を失って感じる漠然とした寂しさは決して消えるものではないけれど、そんな気持ちを感じる暇もないような日々をくれた三ツ谷に、凛子は心の底から感謝していた。
今度、何かプレゼントでも贈ろうかと、三ツ谷の喜びそうなものを考えながら、鼻歌交じりに凛子は教室を後にする。