I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
突然全身が凍り付くような冷たさを感じて、私は目を覚ました。
前髪から滴り落ちる水滴が目に入り、どうやら冷水を浴びせられたらしいという事がわかる。
どこからか吹いてくる隙間風が濡れた身体を凍えさせ、私はブルッと身震いを一つした。
ここはどこ…?
そこかしこに蜘蛛の巣が張っている仄暗い空間。
顔を横に動かせば、ところどころ割れ落ちたステンドグラスと古びた埃まみれのマリア像が目に映る。
両手足を動かそうと試みれば、台のようなものに四方八方括りつけられているらしく手首や足首のあたりがギリギリと痛んだ。
ところどころ割れたステンドグラスからは、時折、冷たい隙間風が吹き込んできて、濡れた身体を震わせる。
正面を見上げれば、割れたステンドグラスから差し込む月明かりを浴びた埃まみれのマリア像が、まるで一人寂しく泣いているかのように見えた。
今では使われていない廃教会の献呈台に、
誰かに捧げる生贄のように固定された私の身体。
冷たい空気を吸い込めば、埃っぽい空気が肺にこびりついて、不気味な程の静けさは背筋に嫌な汗をつたわせる。
声を出そうとすれば、スカーフのようなものが口から後頭部にかけて縛り付けられていて空虚な濁音だけが虚しく零れ落ちた。
一体全体、誰がこんなことを…
寒さに震えながら、そんなことを考えていれば、カツン…カツン…と小さな靴音が聴こえてきて、
聞き覚えのある華奢な音に嫌な予感を感じ、思わず息をのんだ。
少しずつ近づいてくるソノ靴音。
胸の動悸はソレが近付くのと比例して激しさを増していく。
そして、
音のする方へと恐る恐る頭を傾けてみれば、
「……ふふふ♡……やっとお目覚めぇ?」
と言って綺麗に笑う西園寺先輩と目があった。
「そんな怖い顔しないでよぉー。これから仲良くお話ししようと思ってるんだからぁ。」
そのまま、カツン…カツン…と靴音を響き渡らせながら私の傍までよると、西園寺先輩は私の目線に合わせてしゃがみこむ。
膝に頬杖をついてこちらを見つめる彼女の笑顔が、月明かりを浴びて青白く浮かび上がる。
綺麗に弧を描く口元とは対照的に、まるで笑っていない凍てつくほどに冷たい瞳。
そんな異様な先輩の姿に、私の身体は全身で危険だと告げていた。
ジィッと私の様子を伺っている西園寺先輩は「ふふふ♡」と嬉しそうに微笑んだ。