I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
そうすれば、暫くして、
「椿木凛子ちゃん?」
なんて背後から、見知らぬ男の人の声が聞こえた。
「…誰…ですか?」
驚いて振り返れば、ガラの悪そうな見知らぬ男の人がニコッと笑って手を上げる。
私の高揚していた気分は、男の気味悪い笑みを見れば一瞬にして別の感情へと塗り替わる。
「君に恨みなんて一つもないんだけど、頼まれごとでね。ちょっと着いてきてもらうね?」
男の口から続けて発せられたそんな言葉を聞けば、本能的に身の危険を感じる。
そして急いで反対方向に走り出そうとすれば、長くて太い腕に咄嗟に腕を掴まれ、ハンカチのようなもので口元を塞がれてしまう。
「んん゛!?!?ん゛ッ…ん゛――ッ…」
恐れとか焦りとか、身体中に危険だという警鐘が鳴り響く。
必死の抵抗も虚しく、独特な薬品の香りが全身を犯していけば、私はそっと意識を手放した。
少しずつ意識が遠のいていく中で最後に思い浮かべたのは、タカちゃんの笑顔だった。