I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
冬休み前の最終登校日、
俺は誰もいない教室に残って窓際の机に腰掛けていた。
窓から見える誰もいない校庭を眺めていれば聞こえてくる、小さな足音と、教室のドアを開ける音。
「隆くーん、お待たせ♡急にどうしたの?」
蜂蜜のような甘美な香りと共に、綺麗な笑顔を張り付けた詩織さんが顔を出す。
俺は机から腰を下ろすと、静かに彼女の元へと歩み寄った。
「……俺、詩織さんに大事な奴がいるって話したよな?………これまでのこと、何もかも、その相手が誰かわかってての行動だってんなら俺もこのまま黙って見過ごすわけにはいかねぇ。」
「…えー?そんな怖い顔してどうしたの?見過ごすわけにはいかないって何を?」
冷たい目線で彼女を見下ろせば、驚いたように大きな瞳をパチパチと瞬かせた詩織さん。
「……あ?このまま、シラ切るつもり?裏サイトに椿木さんのあることないこと書き込んでんのも、椿木さんにしつこく嫌がらせしてんのも、全部詩織さんだよな?……人としてやっていい事と悪ィ事、言っていい事と悪ィ事の区別もつかねぇのかよ。」
「………どうして?証拠もないのにどうして私のせいになるの?彼女の自作自演かも、とか考えないの?まさか泣き落としでもされた?」
俺が静かに口を開けば、詩織さんは口元にあからさまに嘲笑を浮かべた。
そんな彼女の姿を映した俺は咄嗟に、詩織さんの顔の脇にあった柱に拳をぶつける。
ガンッと鈍い音が響いて、俺の腕にもビリビリと振動が伝った。
「……詩織さん。これでも俺は、アンタが女だから…今すぐにでもぶん殴ってやりてぇところを必死に我慢してんだ。
でも、
もしもこれ以上、椿木さんのこと傷付けるってんなら、
俺も大事なモン守るために使うよ、力を。」
それだけ言えば、詩織さんは目を大きく見開いて唇を噛んだ。
怒りなのか悔しさなのか、ワナワナと小刻みに揺れる身体。
俺はそんな詩織さんの姿を目に焼き付けると、教室を後にした。
ここまで言えばもう大丈夫だろう、俺はこの時、そう甘く考えていた。
「……守る、ねぇ……羨ましいなぁ羨ましいなぁ……でも、それって、守りたいモノがこの世に” 存る ”から言えるんでしょ?」
そして、俺が去った後、彼女が零したそんな小さな呟きは俺の耳に届くことはない。