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I don’t want to miss a thing.

第1章 …I'll be there for you.



”…でも、ずっと思ってたんですけど、やっぱもっと三ツ谷部長のこと頼ったらいいんじゃないですか?”

”…迷惑かけたらいいじゃないんですか?”

”……そんくらいで三ツ谷先輩が嫌な顔するわけないって、凛子さんが一番わかってるでしょ。”

”…自分を頼ってくれないってことが…自分に本当の気持ち言ってくれないってことが…いっちばん寂しくて哀しいことなんですよ、あんたを大切に思う人達にとっては!”


煌めく工業地帯の灯りと、それを映してゆらゆらと輝いている水面。

そんな綺麗な世界の片隅で、私はミズキちゃんに言われた言葉を思い浮かべていた。

新しいローファーを買って、どうしてここに辿り着いたのかはわからない。

でも不思議と、自宅ではなくて、いつかタカちゃんが優しく私を抱きしめてくれた芝浦の工業地帯が見える公園へと足が向かっていた。

凍えそうな手に「はぁーっ」と息を吐きかければ、ぼんやりと吐き出た真っ白な吐息がそっと闇夜に消えていく。


”……辛い時は、今日みたいにもっと俺を頼んなよ、椿木さん。”


いつかこの場で聞いたタカちゃんの台詞は、思い出そうとすれば泣けちゃうほど甘くて優しい記憶。

そんなことを思い出しながら、防波堤の手前で綺麗な夜景を眺めていれば、波が静かに打ち寄せる音とともに、ウォンウォーンッという聞き慣れたバイクの排気音が聴こえた気がした。

あぁ、やっぱりタカちゃんが隣にいなきゃ、こんな綺麗な夜だってどこかぼやけちゃうな、なんて私は心の中で独り言ちる。


「………タカちゃんに、ごめんって言わなきゃな。」


孤独に凍えそうな美しい夜、

月の光を瞼に浴びながら、暗闇の中でぼんやりと光る工業地帯の灯りと遠くで小さく煌めく星たちを眺める。

どこまでも限りなく続いてるであろう見えない水平線をなぞれば、今まで言えずにいるタカちゃんへの想いが指先から溢れ出した。

そんな言葉達を少しでも伝えたくて、届けたくて、私はカバンからおもむろに携帯を取り出す。

そうして、真っ黒な画面に電源をつければ、タカちゃんからの何十件という不在着信の知らせが届いていることに気付いた。

驚いて急いで掛け直せば、呼び出し音が3コールくらい響いた後で電話が繋がる音がした。

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