I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
ミズキちゃんと別れて、私はどこかスッキリした気持ちで、とある場所へと足を進めていた。
それでもやっぱり私の頬を涙が濡らしているのは何でだろう?
それは、きっとミズキちゃんの優しさが痛いくらいに心に沁みたから。
冷たいアスファルトを裸足で歩くのは想像以上に痛くて冷たくて。
やっぱり体育館シューズでも履いて帰ってくればよかったな、なんて溜息が一つ零れた。
きっとタカちゃんにこの事を知られたら、酷く叱られてしまうだろう。
いや、今更、何をしたところで叱られそうだと、私は先ほどのミズキちゃんの言葉を思い出しては苦笑した。
裸足で泣き笑いしながら歩く私の様子は、ひどく異様だろう。
すれ違う人々が驚いた様子でこちらを振り向いたし、奇妙なものを見つめるようにこちらを見つめていた。
もうそんな視線には皮肉にも慣れてしまったので何とも思わない。
あれ、何か私ちょっとだけ強くなったじゃん。なんて。
そう思っていれば、目的地にたどり着いた。
「…お姉ちゃん、ユキ。久しぶりだね。向こうで元気してる?」
そう、ここは椿木家の墓前だった。
途中コンビニで買った線香に火を点ければ、独特な香りが鼻をくすぐった。
「…凛子さ、最近泣いてばっかでさ、こんな姿見たらお姉ちゃんに叱られちゃうなーユキに泣かれちゃうなーってずっと思ってた。
でね、今日ね、厄病神なんて言われちゃってさー、流石にびっくりしたっていうかショックだったていうか。
ここ最近起きたショックな出来事ベスト3に入るくらい、心が痛くなったよ。」
私はお墓の前に体育座りをすると、そう言って苦笑した。
「…私がピアノなんかやってなければ……あの日コンサートなんて出なければ、
お姉ちゃんは「泣いてないでやり返してこい!」って私の背中押してくれたかなって、
ユキは「お姉ちゃんなら大丈夫だよ」って小さな身体でギュって抱き着いてくれたかなって、
お母さんは、自分のことみたいに一緒に涙流してくれたかなって、
そう思ったから。
…確かにそうかもーってちょっと思っちゃったりして。
上手い事言うじゃん!なんて笑いなんか零れちゃって。
悔しくて悔しくてどうしようもなかった。」
ハハッなんて零した乾いた笑いが、シンと静まった墓地に響いた。