I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
進路希望調査表
3年2組 西園寺詩織
書かれている文字数は少ないモノの、その特徴的な丸みを帯びた筆跡を目で追えば、
下駄箱に、机に、教科書に、毎日のように綴られてきた数々の汚い言葉達が、西園寺詩織、彼女によって書かれたものだということは一目瞭然だった。
そうすれば、これまでの一連の行為に、妙に合点がいって、
私は、怒り心頭で身体が震えるでもなく、悔しくて涙が溢れ出すでもなく、
自分でも不思議な程に、ただただ冷静にその事実を静かに受け入れていた。
「……そっかぁ、西園寺先輩だったんだ。」
西園寺詩織が怪しすぎるとずっと疑っていた優美ちゃんと、エマちゃんと柚葉ちゃん。
女の勘って奴は凄いな、なんて乾いた笑みが零れた。
「…おー、椿木、どうしたぁ。」
そうこうしていれば、後ろの私に気付いた担任がこちらを振り向く。
「…あー、すいません。別の先生の机にぶつかっちゃって…落とした資料を戻そうと思って。」
そう言って苦笑して見せれば、担任は「おお、そうか。気をつけて帰れよー」なんて言って、ヒラヒラと手をふった。
「…わ、厄病神じゃん。…やだ、あっち行こ。不幸がうつる。」
昇降口で下駄箱の中にあるはずのローファーがない事に、困ったなぁなんて頭を抱えていれば、脇からふとそんな言葉が聞こえてきた。
後輩と思われる少しあどけなさの残る女子生徒達は、クスクスと笑みを零しては、私の傍を通り過ぎていく。
” 厄病神 ”
聞き慣れない単語に私は動きを止めて、おもむろに携帯をカバンから取り出した。
そして、
全然会話もしたことがない先輩や後輩にまで私のあることないことが出回ることになった元凶であろう、学校裏サイトのリンクを開く。
渋谷第二中学校 裏サイト
そう記されたサイトの新規スレッドには、
――クソビッチ 椿木凛子の凄惨な過去。正体は厄病神だった。
なんて言葉から始まるスレッドが立ちあがっていた。
「…ハハッ、なるほど、そうきたかぁ。」
スレッドの続きを確認すれば、私の家族構成や私達の間に起こった悲劇的な出来事について一部脚色された状態で詳細に記されていた。
内容を最後まで確認すれば、何だか不思議なほど、笑いが込み上げてくる。