I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
そして次に2人を見かけたのは、
近づく夏の予感に騒ぎ出した周囲の喧騒がやけに耳にうざったくて、静けさを求めて近くのコンビニを訪れた時だった。
やつれた心を慰めるために吸い込んだ未だ少し慣れない苦くて甘い香り。
白煙をふぅーっと細く長く吐き出せば、泣き出したい気持ちも一緒に闇夜に消えていく、そんな気分になった。
「椿木さんはそんな着飾んなくても可愛い。」
住宅街の一角で、不意に聞こえてきたキザな台詞。
思わず声のする方を見遣れば、いつかの少年と少女が立っていた。
顔を真っ赤に染める少女と、まるで世界で一番愛しいモノを目の前にしているかのように、そんな優しい色を含んだ瞳で少女のことを見つめる少年。
着飾ることや女を売る事でしか存在価値を認めてもらえない自分が酷く惨めに思えて、私は、上を向いて白い煙を再び吐き出した。
泣きたくなくて綺麗な夜空を見上げたはずなのに、無情にも涙が一粒、私の頬を伝っていった。
同時に、自分も一度でいいから、あんな風に、無条件に誰かに愛されてみたいとも思った。
そして、9月に入ったというのに太陽がギラギラと照り付ける体育祭で少年少女が自分と同じ中学に通う後輩だということを知った。
盛り上がる観客席を横目に、寂しい心を慰めるため、木陰で別に大して好きでもない男達の相手をしていれば、男の頭ごしに不意に瞳に飛び込んできた光景に視線を奪われた。
突然倒れた少女の元へ血相を変えて駆け寄った少年。
壊れ物を扱うかのように大切そうに少女を抱きかかえた彼の姿を見て、
自分も一度でいいから、あんな風に、誰かに大切にされてみたいと思った。
それと同時に、
彼の優しくて愛情に満ちた瞳が、
どうしようもなく欲しい。
そんなことを想った。
” 欲しいなら奪ってしまえばいい ”
別に、これまでだって、お金でも名声でもポジションでも欲しいものがあれば、どんな手を使ってだって手に入れてきた。
ならば、今回だって、今までと同じようにやってみせればいい。
あの子から全部全部奪ってしまえばいい。
ただ、それだけの話。
私は校舎の中へと向かっていく2人の後ろ姿を、ただひたすら瞳に焼き付けるように眺めていた。