I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
三ツ谷隆という一つ下の男の子。
彼を初めて見かけたのは、丁度1年くらい前。
確かあれは、街中が迫りくるクリスマスに浮足立っていて、どこを見渡してみても往く人々の幸せそうな顔が胸に虚しく映る、そんな寒い日の夕暮れ時だったと思う。
澄んだ空気がひどく綺麗な宵闇を映し出すような頃、私は大道路沿いの人目に着かない場所で、望んでもいない待ち人を待っていた。
藍色に染まり出した空をオレンジ色の街灯の灯りがしっとりと照らし出す様子が何故かとても綺麗に想えて、
不意に涙が一つ零れ落ちたのを今でもやけに覚えている。
小さく吐き出した真っ白な溜息はあっという間に姿を消していった。
ただ何をするわけでもなく、ぼんやりと人々の往来を眺めていれば、一人の少年の姿が目に映り込んだ。
藍色の空に映える銀色の柔らかそうな髪の毛と、少し垂れた目元が特徴的な少年だった。
スーパーの大きな袋片手に幼子2人を引き連れて歩く少年の姿に、「あの子もまだ若いのに苦労してて可哀想だな」なんて一種の仲間意識のような感情を覚えた。
それでも少年は、不満げな顔をするでもなく、派手な見た目とは裏腹に愛情に満ちたとても優しい表情を浮かべていた。
次にその少年を見かけたのは、
ようやく木々や花々が息吹き出した頃、穏やかな風が荒んだ心に優しい夜だった。
大金や地位の約束を得る代わりに何か大事なものを1つ2つと失っていく――
そんな鈍い痛みを感じながら独り帰り道を歩いていた。
そうして総合病院の前を通れば、ポケットに両の手をいれてバイクにそっと背を預けている少年の姿が目に入った。
いつか見た少年の姿に私はふと足をとめた。
病院の入り口から待ち人なのか、柔らかい笑顔が似合う少女がパタパタと駆け寄ってくれば、少年は嬉しそうに目を細める。
東京卍會と刺繍が施された黒の特攻服を羽織る少年の頬に、擦り剝けたような痕があることに気付いた少女が眉を顰めれば、少年は頭を掻いて少し困ったように笑った。
そして、まだ少し怒っているような表情で何やら口を動かした少女のことを、とても愛しそうな瞳で見つめると、
まるで大事な物を包むみたいに、少女の頭に自身の首元にあったヘルメットを置いた。
月の優しい光に照らし出された幸せそうな2人の笑顔が何だか羨ましくて、私の胸はチクリと小さな泣き声をあげた。