I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
椿木さんが足早にその場を後にし、エマが「凛子ちゃん!」と椿木さんの後ろを追っていく。
そんな様子を俺は複雑な思いで見つめていた。
そうすれば、
その場に残っていた柚葉がキッと俺に詰め寄る。
「…三ツ谷。アンタ、何、中途半端なことしてんだよ。」
八戒とは対照的な柚葉特有の鋭い視線が俺の目を射った。
「…三ツ谷に限ってこんなこと有り得ないと思ってたけど、アタシが馬鹿だった。」
「…ハハッ、こんなことって何だよ。学校の先輩が俺らにケーキ買ってきてくれたから昼飯一緒に食っただけなんだけど。」
俺がそう言って柚葉の方に苦笑すれば、
「別にそんなこと聞いてない。アタシはただ、大事にしたい子がいんなら誤解させるようなことすんなって言ってんだよ!」
と語尾を強めた柚葉。
「本当に大事なもん失ってからじゃ遅ぇんだぞ?!」
そして、そう捨て台詞を残すと柚葉はくるりと背を向けた。
「………ほんと何やってんだろうな、俺。」
昼間の出来事を思い出せば、盛大な溜息が零れて、俺はバタンッと勢いよく布団の上に横たわる。
仰向けになって天井を仰げば、浮かんでくるのは、目が合った時にほんの一瞬だけ瞳に映った椿木さんの哀しそうな顔。
…不本意ではあるものの、最近詩織さんのペースに巻き込まれていたことは否めない。
そして、よくよく考えてみれば、柚葉の言う通り、椿木さんに変な風に誤解されたとしても仕方ない。
何せ、俺らは最近まともに目を合わせた会話をしていなかったから。
一番大事にしたいと想っていたはずなのに、
いつの間にかきっと、俺は俺自身が傷付くのを何よりも恐れていたんだろう。
” 椿木さんにとって俺は必要じゃない "
そんな言葉を突きつけられるのが怖くて、目をそらしていたんだろう。
そして何よりも、
椿木さんに言わなきゃいけない言葉をまだ全然伝えられてねぇってのに、
” 何も言わなくてもわかってほしい " と、そう望んでしまった
そんな俺の傲慢さに、今頃になってツケが回ってきたんだろう。
そんなことを想えば、情けなくて胸が締め付けられるように痛んだ。