I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
何だかんだ女3人ゆっくりと喋りながら身支度をしていれば、時計の針は13:30を少し過ぎた辺りを指していた。
お腹空いたねなんて言いながら、エントランスの扉をくぐり外に出れば、冷たい外気が身に染みて、私は小さく身震いをした。
「あ!!!凛子ちゃんだ!!!」「凛子ちゃん!!!」
不意に響いた、耳に馴染みのあるまだ幼さの残る澄んだ明るい声。
「………え?……」
勢いよく抱き着いてきた小さな体を抱きとめ、驚いて視線を上げれば、こちらを見て目を見開いたタカちゃんの姿があって。
それから、カツン…カツン…とピンヒールブーツの靴底の音を響かせながら、少し軋むタカちゃんのアパートの階段をゆっくりと降りてきた西園寺先輩の姿が目に映った。
ドクンッ…ドクンッ…と全身に響き渡る胸の動悸。
それから、ズキンズキンと激しく痛みだした私の胸の奥。
昨日、西園寺先輩はどんな服を着て武蔵神社に現れた?なんて、
一体2人はいつから同じ空間にいた?なんて、
抑えることの出来ない不安や恐怖、それから悲しみといったあらゆる感情が胸の内で渦巻いて、それは一瞬のうちに身体中を支配した。
「公園行って一緒にあそぼ?」「あそぼ?」なんて言ってこちらを見つめているルナちゃんとマナちゃんの声だって、今はぼんやりと聞こえる。
最初こそ面白くなさそうな顔をしていた西園寺先輩も、そんな私の姿に気が付いたのか、口元に綺麗な弧を描いた。気がした。
私は何か言いたげなタカちゃんの視線に気付かない振りをしては、しゃがんでルナちゃんとマナちゃんに視線を合わせた。
「…ごめんね、今日は別の約束があるんだ。また今度ゆっくり遊ぼうね。」
そう言って今出来る精一杯の笑顔を2人に向ければ、2人は「「……わかった」」と悲しそうに俯く。
そんな可愛くて仕方のない2人の姿を見れば、私の胸の痛みには拍車がかかる。
でも、今ここで、タカちゃんと西園寺先輩と共に時間を過ごすことが出来るほど強い心は持ち合わせてなくて、
かと言って、2人を預かってタカちゃんと西園寺先輩を2人きりにしてあげるなんて、まるで余裕のあるイイ女を気取るほど自信もなくて、
今にも零れ落ちそうな涙が私の頬を伝うその前に、この場を後にする他なかった。
後ろからタカちゃんが私を呼んだ気がしたけれど、私は聞こえないふりをして歩を進めた。
