I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
「……は?」
一方、凛子宅の真向かいにある、三ツ谷の住む古びたアパートには、耳に携帯を当てて目を見開く三ツ谷の姿があった。
電話の相手は昨日自宅まで送り届けた西園寺詩織。
『今お家の近くまで来たんだけど、どこかわかんなくて…』なんて電話口で言い出した彼女に三ツ谷は心底驚いていた。
コンロの火を止めて家の外に出れば、温かそうなコートに身を包んでキョロキョロと辺りを見渡している詩織と目があう。
昨日の帰り道、詩織の自宅付近での会話をふと思い返す三ツ谷。
『…ねぇ、隆くん。椿木さんだっけ?彼女暫く忙しいんでしょ?私が代わりにお家で妹ちゃん達の面倒とか見ようか?暫く撮影とかもなさそうだし!』
『……んー、気持ちは有難ぇけど、詩織さんの家から少し距離もあるし悪いって。それに別に椿木さんと知り合うまではいつも何とかしてたしな。気にかけてくれてありがとな。』
『…えー、そんなん遠慮しないで良いのに~。…それに、帰りは隆くんがウチまで送ってくれればよくない?そうしたらもっと一緒に居れるし♡』
『…ハハッ、じゃあまた今度機会があればお願いするよ。』
俺、アレ結構ちゃんと断ったつもりだったんだけどな…なんて、三ツ谷は、自分の言葉が全くと言っていいほど響いていない様子の詩織の姿に苦笑いを浮かべると頬を掻いた。
「……おー、詩織さん、急にどうしたよ?」
白い息を吐き出す詩織に三ツ谷がそう尋ねると詩織は、
「駅前に美味しいケーキ屋さん見つけてね、一緒にどうかなと思って♡妹ちゃん達の口にも合うといいんだけど…」
と言って小さな紙袋を見せて微笑んだ。
「…え、マジで?…アイツら絶ッ対ェ喜ぶと思うけど、何かいつも貰ってばっかで悪ぃな……。」
詩織に差し出された紙袋の中身を三ツ谷が確認すれば、如何にも高級そうなケーキの品々が並んでいた。
流石にこんなに高価な物を貰っておいて、はい帰って下さいというのは宜しくないかと、三ツ谷は躊躇したものの詩織を昼食に招くことにする。
「……詩織さん、飯食った?まだなら、ウチで食ってけば?何か貰ってばっかで悪いし。って言っても…お礼にするには適当なメニューで恥ずかしーけど。」
「え、ほんと?!わぁい♡嬉しい♡」
無邪気に笑う詩織と、少し強引な彼女に困ったような笑みを浮かべた三ツ谷がいた。