I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
「……ふぅ…これでよしっと。」
病室の一角、母が眠る傍で、私はセロテープを机に置くと腕を高く伸ばし、凝り固まった背中をグッと伸ばした。
セロテープで歪につなぎ合わせられたスケッチブック。
掌でそれを撫でれば、悲しい笑みが一つ零れた。
「………お母さん、ごめん、凛子少し疲れちゃった。」
そんな本音がポロリと零れても、返事が返ってくることはない。
「ハハッ、こんなこと言ってもどーしよーもないか。」
ぼんやりと窓の外を眺めれば、オレンジ色から紫色に変わりつつある綺麗な夕焼けが目に染みる。
” 辛い時はもっと俺を頼んなよ ”
いつかタカちゃんが言ってくれた優しい言葉が聞こえた気がした。
それでも彼を頼れないのは、きっと私の悪い癖。
タカちゃんと私の間に広がっていく小さな溝と、今日起きた出来事を思い起こせば、自然と溜息が零れた。
お気に入りの楽譜がボロボロにされて心底落ち込んでいた帰り道、
『…あ、隆くんの”お友達”だ!』なんて追い打ちをかけるように聞こえてきた西園寺先輩の甘い声。
” お友達 ” という言葉が嫌に耳に木霊して聞こえて、パタパタと嬉しそうに駆け寄ってくる愛らしい姿を捉えると私は苦笑いを一つ溢した。
『…これから、お母さんのお見舞い?よく隆くんからお話し聞くよ~、すごいなぁ詩織だったら絶対耐えらんない…。ほんと尊敬する!』
そんな風に言って眉を下げた西園寺先輩。
同情するようなその声に、複雑な心境を抱きつつ、
『…先輩も今帰りですか?』
私がそう言えば、西園寺先輩は、
『…あー、ちょっと隆くんのところ寄ってから帰ろうかなぁって思ってて。』
と言ってはにかんだ。
『……何か、2人って恋人同士みたいですね。』
自分でも不思議で仕方ないけど、どういうわけかその時はそんな言葉が口から零れた。
そんな自分自身に心の中で心底悪態をついていれば、西園寺先輩は『…あー、やっぱわかっちゃう?』と言って嬉しそうに微笑んだ。
自分からふっておいておかしな話だが、西園寺先輩の予想外の返答に私は、誰かに心臓をギュッと掴まれたかのような、不意に時が止まるような、そんな感覚に襲われた。