I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
その頃、音楽室ではお気に入りの楽譜をコピーして切り貼りしたスケッチブックを片手に絶句する凛子がいた。
「……………ひ…どい……。」
凛子が例の如くピアノを弾こうとオリジナルの楽譜集となっているスケッチブックを開けば、パラパラと崩れ落ちる楽譜。
ビリビリと破られた楽譜の端々が鍵盤の上に零れ落ちた。
コンクールで入賞した時の思い出の曲、大好きな家族との思い出の曲、三ツ谷が好きといってくれた思い出の曲…
強弱や弾き方の指示が事細かに書き込まれた、そんな宝物とも言える大切な楽譜の数々が目の前で零れ落ちていく。
まるで大切な想い出を誰かに非情にも壊されていく、そんな、あまりに残酷な出来事に凛子は言葉を失った。
そして、暫くの放心状態を経た後、凛子は、鍵盤の上に、床の上にと散らばった楽譜の切れ端を、一つ一つゆっくりとかき集めていく。
そうしていれば、大きな瞳から一粒の涙が零れ落ちた。
どんな陰口を言われても、聞くに堪えない酷いデマをネットに流されても、勝手にいわせておけばいいと、いつか落ち着くだろうと、これまで静かに耐え抜いてきた。
でも、
流石にこんなことをされて……ヘラヘラと笑うことは凛子には出来なかった。
「……私が一体何をしたって言うの?」
かき集めた楽譜のピースを眺めて、そんな言葉が凛子の口から不意に零れ落ちる。
「……………くやしい…なぁ…くやしいなぁ…」
大粒の涙は、音もなく静かに静かに凛子の頬を濡らし、ビリビリに破り捨てられた小さな楽譜の山を湿らせた。
「…ただタカちゃんの側にいたいだけなのに……」
凛子は床で細い足を引き寄せると、自身に大丈夫と言い聞かせるように両腕で自身の肩を抱いた。