I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
三ツ谷と西園寺詩織が例のシャネルの展示会に行ってから、早1週間が経過していた。
その後の凛子と三ツ谷と言えば、何となくお互い気を使いあうような雰囲気が増えて、2人は知らないうちにギクシャクしていた。
そんな2人の変化には、凛子の友人、森田優美がいち早く気が付く。
「……はぁ、どうしたもんかね。こりゃ。」
昼休み、
いつもなら次が音楽の日には音楽室に向かう三ツ谷が、今日のところは後ろの席で耳にヘッドフォンを当てながら黒い布地に糸を通している。
そんな様子を頬杖をつきながら、溜息交じりに眺める優美。
そうしていれば、三ツ谷のヘッドフォンが、不意に後ろから伸びてきた細い手によって外される。
驚いた三ツ谷が「…あ?」と振り向けば、「…もうー、隆くんったら、さっきから呼んでるのに全然こっち見てくれない~。」なんて、むくれた顔でヘッドフォンを手にしている西園寺詩織がいた。
「……なんだ、詩織さんか。びっくりさせんなよ。」
そう言って苦笑する三ツ谷に、西園寺詩織はヘッドフォンを自身の耳に当てると、
「わぁ!隆くん、あゆとか聞くんだ。詩織も大好きー!」
なんて言って嬉しそうに笑った。
「………浜崎あゆみって……完全に凛子の影響じゃん、三ツ谷くん。」
そんな三ツ谷と西園寺の姿をジッと見つめると、またしても大きな溜息をつく優美。
「…凛子、本当に大丈夫かなぁ。」
そして、優美は携帯を開き、” 渋谷第2中学校 裏サイト ”と書かれたホームページを覗く。
そこには凛子に関するあることないことを書き込んだスレッドが立っていた。
インターネットが台頭して、匿名で人の悪口を全校にばら撒けてしまうシステムまで誕生して、本当に恐ろしい時代になったものだと嘆く。
きっと正義感溢れる機械音痴の彼は、こんなものがあることすら知らないのだろう。
親友である凛子本人に「タカちゃんには絶対言わないで」なんて言われているので黙っているものの、本当にそれでいいんだろうか?
優美は、未だ他愛もない話で盛り上がっているように見える西園寺と三ツ谷の様子を伺いながら、溜息をまた一つ溢した。