I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
「…そういえば、西園寺先輩と週末シャネルの展示会行くんだって?…ごめん、盗み聞きするわけじゃなかったんだけど聞こえちゃって…。」
私がおもむろにそう口を開けば、タカちゃんは「…あー…聞こえてたかぁ」と言って困ったように笑った。
「タカちゃんシャネル好きだし、関係者の人しか入れない展示会なんてすごいよ!いいじゃん!ルナマナコンビは私の方で預かるし、こんな機会滅多にないだろうから、ゆっくり楽しんできなよ!」
よくもまぁ思ってもないことをペラペラと喋れるもんだなんて、私は我ながら感心する。
しかし私の想像とは裏腹に、タカちゃんは複雑な表情を浮かべていた。
「…あれ?あんまり楽しみじゃないの?」
「……いや、勿論デザインに興味ある俺としてはすげぇ楽しみではあるよ。でも…その…なんてゆーか……俺が詩織さんと2人っきりで出かけること、椿木さんは何とも思わねぇのかなって。」
そう困ったように笑うタカちゃんの顔を見れば、私の胸は締め付けられるように痛んだ。
何とも思わないだなんて、そんなわけないじゃん。
そんなの想像したくもないし、嫌に決まってるじゃん。
でも、タカちゃんの大好きなブランドの展示会だもん。
一緒に行く相手が誰であろうと
行かないでよなんて私には言えないよ、タカちゃん。
「…んー、どうして?西園寺先輩、読者モデルかなんかなんでしょ?モデルさんなんて、デザイナー志望のタカちゃんとすっごいお似合いじゃない?きっと2人で行ったらお洋服とかデザインとかの話で盛り上がれるだろうし、すごい楽しめると思うけどな~。」
私がそう笑って見せれば、2人の間に少し間が空いた。
そして、タカちゃんは「……そっか。…そうだよな。」なんて呟いて、目を伏せたまま口元に綺麗な弧を描いた。
心なしかタカちゃんの長い睫毛の隙間で光る優しい瞳が寂しそうに見えた。
はぁ、きっと私はミズキちゃんが言うように大馬鹿野郎だ。
何だか、自分で自分の首を絞めた、まさにそんな気持ちになった。
ズキズキと激しく痛む胸を誤魔化すように、ミズキちゃんとの出逢いについてタカちゃんに話題を振れば、タカちゃんは『藍沢ミズキ』という少しやさぐれた少女との出逢いについて懐かしそうに語り出した。
そんな他愛もない話を聞いてれば、ほんの少しだけ気が紛れるような気がした。