I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
「……そういうわけじゃないけど、もう十分かなって。」
タカちゃん、誰か知ったら絶対お説教とかしに行くでしょ?
そう言って眉を下げて笑う椿木さん。
「…多分、タカちゃんが怒りに行かなくても私がやり返さなくても、もう十分傷付いてるから、その人。きっと今日も一人で泣いてるかもしれないから。…だから、もういいの。」
私の代わりに怒ってくれてありがとう、タカちゃん。
椿木さんは、そんなことを言っては、自身の頬に沿えられた俺の手に椿木さんの小さな手を重ねて「…タカちゃんの手、あったかいね」と微笑んだ。
澄んだ瞳には、慈愛に満ちた強い光が宿っていた。
そんな意思のこもった綺麗な瞳で見つめられれば、それでも、と言葉を続けるのはひどく無粋な気がして。
もっと俺に守らせてよ、なんて自分勝手な言葉は飲み込んだ。
「……ったく、ほんと、とんだお人好しバカヤローだよ。」
そして、たったそれだけ、苦し紛れの一言が零れる。
「ハハッ、それ今日ミズキちゃんにも言われたやつだ!」
俺はそんなことを言ってはクスクスと笑う椿木さんを見つめては、ふうと小さく息を吐いた。
こんなに弱さを見せたがらない女の子に出逢ったのは、生まれてこの方、椿木さんが初めてで。
どうしたら、もっと彼女の心の弱いところを覗くことが出来るようになるのだろうかと、俺は心底そんなことを思った。
本当の意味でもっと近くに行きたいのに、椿木さんはあと一歩のところでいつもそれを許してくれない。
このまま手を伸ばして想いのままに抱きすくめてしまえば、きっと椿木さんを一瞬だけ手に入れることが出来る。
でも、それじゃあダメなんだと心が騒ぐ。
椿木さんの抱える孤独や哀しみ痛み、それら全部ひっくるめて、俺は椿木さんのことを抱きしめたいんだ。
そんなことを考えること自体が、もしかしたら俺の驕りなのかもしれない。
もしかしたら本当に椿木さんは俺なんかがいなくても、1人で生きていけるのかもしれない。
それでも、椿木凛子という1人の強くて弱い女の子を優しく包み込む光になりたいと、1人の男として守らせてほしいと願ってしまう。
まだ薄紫色の空に一番星がそっと輝き出した頃、俺はまた空を仰いだ。