I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
「今日も病院寄ってく?」
俺がそう聞けば、
「流石にこんなずぶ濡れじゃ迷惑だろうから今日は直帰しよーかな。また明日来ればいいし!」
なんてニコッと笑う椿木さん。
そんなこんなで、俺達は珍しく自宅まで一緒に下校することになった。
勿論2人の手はゆるりと繋がれたまま。
緊張しているのか薄っすらと頬を染めてぎこちなく笑う椿木さん。
でも、いつも俺の手を振り払わないところを見れば、きっと俺達が付き合えるまでそう遠くはない。
俺はそんなことを考えては頬を緩め、手を繋ぐ力をキュッと強めた。
すっかり日は短くなって、学校を出る頃はまだオレンジ色だった空も薄紫色に変わりつつあった。
赤々と色づいた街路樹の葉が、少し冷たい風に吹かれて、ふわりと舞う。
そうすれば、クシュンッと小さなくしゃみの音が一つ。
「…悪ぃ、今日学ラン置いてきちまって。それしか貸せなくてごめんな。」
隣で俺のカーディガンを羽織る椿木さんを伺えば、椿木さんは首をブンブンと降った。
「全然!むしろタカちゃんの方こそ寒いよね、ほんといつもごめん。」
申し訳なさそうに眉を下げる椿木さんの頭をポンポンと撫でる。
「俺は全然へーき。これでも一応鍛えてるし。」
俺がそう言って笑えば、椿木さんも少し安心したように笑う。
「……タカちゃんのカーディガンってね、すごいあったかいの。羽織ってると何かホッとする。なんでだろーね。」
そして、椿木さんは照れたように目尻を下げてはにかむ。
俺は足を止めると、そんな椿木さんの少し赤く腫れあがっている左頬を撫でた。
「…………これ、誰にやられたの。」
俺の大好きなこの笑顔を傷つけるのは、一体どこのどいつなんだろうか。
こんなに真っ白で綺麗な肌を、こんなに澄んだ瞳を見て、どうして痛めつけようと思えるのだろうか。
俺には到底理解出来ない行動に、沸々と静かな怒りが燃え上がっていく。
椿木さんは俺の真剣な眼差しを受け取ると、「…んー」と気まずそうに頬を掻いた。
「…俺には言いたくねぇの?」
そう言って顔を覗き込めば、椿木さんは困ったように笑う。