I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
「ハハッ、『可愛い女の子でいたい』ってゆーから知らねぇフリしてたけど、あの回し蹴りはマジで痺れたわ。あと俺、あん時さ、椿木さんって俺のことそんな風に思ってくれてんだなって、めっちゃ嬉しかった。」
そこまで言えば、たちまち椿木さんの顔は真っ赤に染まる。
「…うわ…ちょっと待って。現実を受け入れきれない……確か私、あの時凄い恥ずかしいこと言ったような気がする……」
椿木さんは白い大きなタオルを頭から被ると、まるで、てるてる坊主のような姿で、うぅ…とか、あぁ…とか唸り出した。
俺は、そんな真っ赤な彼女に笑みを一つ溢すと、タオルを被った椿木さんの頭をワシャワシャと乱雑に撫でた。
「ハハッ、俺が嬉しかったって言ってんだから問題ないっしょ。ほら、そんな姿じゃ風邪引くし、そろそろ帰ろーぜ。」
そう言って小さな椿木さんの手を引いて歩き出せば、驚いたように目を丸くする椿木さん。
早く帰って熱い湯舟に浸からせてやらねぇととか、どうしてこんなずぶ濡れなのかとか、これから聞かなきゃいけないことも問題も山積みだ。
けれども、久しぶりに長く椿木さんの側にいれる、そんな些細なことに俺は浮かれていた。
そう、浮かれていた。
だから、俺達の姿を教室の窓から面白くなさそうに眺めている一つの影に気が付くこともなかった。