I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
中々校門に姿を現さない椿木さんを心配して校舎の方に来てみれば、ずぶ濡れの椿木さんに駆け寄る後輩の姿を見つけた。
急いで駆けつけたものの登場するタイミングを逃し、2人の会話を校舎の壁に持たれて盗み聞きすること10分程。
2人の会話が一段落したところで、俺はもたれていた壁から背をはがした。
「…おー、椿木さん。あんまり遅ぇから迎え来たわ。」
そう後ろから声をかければ、「あれ、タカちゃん?!一体どこから?!」なんて間抜けな声が響いた。
口をパクパクさせているアホ面の椿木さんにデコピンを一つかまして、藍沢さんに「何だか色々やきもきとさせてるみてぇで悪ぃな。」と頬を掻いた。
そうすれば、
「ほんとですよ、三ツ谷部長来るの遅すぎ!全く、なーんで私が出て来なきゃいけないんですか。」
なんて、藍沢さんは腕を組んでそっぽを向いた。
「…じゃあ三ツ谷部長も迎え来た事だし、私はとっとと退散しますよっと。じゃあ…またね、凛子さん。」
そして、そう言って綺麗な笑みを浮かべると、藍沢さんはヒラヒラと手のひらをふりながら校舎の中へと姿を消した。
「……もしかして、全部聞いてた?」
暫くして、気まずそうにぎこちない笑みを浮かべた椿木さんが花壇から腰を上げるとスカートについた埃をはたく。
「…あー、悪ぃ。盗み聞きするつもりじゃなかったんだけど出てくタイミング逃して…。藍沢さんがタオル持ってきた辺りから聞いてた。」
俺がそう言えば、椿木さんは「…そっかぁ、まぁ別に聞かれて嫌な話じゃないし。」と苦笑する。
「……ん?!……あれ?ちょっと待って…。………もしかしてだけど、それじゃあ、ミズキちゃんが言った『男のこと蹴り飛ばした』とかそういうのも聞こえちゃった?!」
まるでこの世が終わるとでも言いたげな顔で、こちらを勢いよく振り向いた椿木さん。
俺はそんな彼女の顔に一瞬面食らった後で噴き出した。
「ハハッ、何だよその顔。聞こえた聞こえた…つーか、俺もその現場見てるし、椿木さんのバカカッコイイ台詞もバッチリ聞いてるし、今更何も驚かねぇわ。」
そんな俺の言葉に椿木さんは、「…え?嘘だよね?どうか嘘と言って、タカちゃん。」と、こちらを死んだ魚のような瞳で見つめ返した。