I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
「オイ、テメェ1年!下降りて来いクソガキ!」
「こんなことしてタダで済むと思ってんのかお前!」
取り巻きの連中は水浸しになってパニックに陥ってる彼女を取り囲むと、頭上で綺麗な髪を靡かせている彼女に吠えた。
トイレからこちらを見下ろす彼女は、
そんな3人の言動にニヤリと愉しそうに口角を上げる。
「…ギャーギャーギャーギャー、うるせぇんだよブース!…あんま自分の立場わかってないみたいだから言ってあげますけど、別に私がこのまま職員室で『下で先輩たちが一方的にそこの馬鹿な先輩のこといじめてる~』って泣きながら訴えてもいいんですよ?こんな時期に問題起こせば進学に支障来すかもしれないけど…OKってことですよね?」
そして、そこまで言えば、楽しそうに声を立てて笑った。
「……こんのクソガキ!!!」
「…てめぇいつか覚えてろよ!!!」
苦虫を噛み潰したような顔をした先輩達は、そんな漫画の台詞みたいな捨て台詞を吐くと校舎の中へと駆けていった。
「………プッ…アハハ…アハハハハハ!」
先輩達が悔しそうに去っていく背中を呆然と眺めていれば、おかしいほどに笑いが零れてくる。
「……は~、久々に笑ったぁ。…ねぇ君、1年生?上級生相手に全くすっごいことするじゃん!…いやぁちょっと爽快な気分…君、名前は?」
ひとしきり笑ったあと、こちらを見つめている果敢な女の子の方を向いて名前を尋ねれば、
「…藍沢。藍沢ミズキ。手芸部1年。」
と不愛想な返事が返ってきた。
何だか猫みたい…というか、どことなく千冬くんのような雰囲気を持つ彼女に私はふっと頬を緩める。
「へえ~タカちゃんの後輩かぁ。…タカちゃんってば随分可愛い後輩に恵まれてること。」
クスクスと腹を抱えて笑っていれば、ミズキと自身を名乗った彼女は照れたように眉間に皺を寄せると、何か考え込むような素振りを見せた。
「どうかした?」
「…そっち行くんでちょっと待っててください」
不思議に思って声をかければ、ミズキちゃんは大きな溜息をつくと小さな窓から姿を消した。
暫く大人しく待っていれば、大きなタオルを手にしたミズキちゃんがパタパタと駆けてくる。
「これ、保健室からパクってきたんで使ってください。…私のでよければジャージとかもありますけど…」
そう言ってミズキちゃんは白い大きなタオルをこちらに差し出した。