I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
それから暫くして、
少し肌寒くなってきた11月中旬。
凛子は眠い目をこすりながら昇降口の扉を開けた。
部活の朝練に足を運ぶ生徒と共に登校して、まだ誰もいない教室に一番乗りで足を踏み入れる。
それがいつしか凛子の日課になっていた。
その後も相変わらず低俗な嫌がらせは続いていたし、嫌がらせの内容は日を追うごとに酷くなっていた。
まだ誰もいない静かな昇降口。
いつものように、凛子は下駄箱の中に入っているゴミや、凛子の顔が合成されたグラビア写真などをビニール袋にまとめて捨てる。
教室に行けば、机の上にマジックで書かれた数々の汚い言葉たち。
除光液をぞうきんに含ませて、ゴシゴシと擦れば、じわりと黒いインクが滲みだす。
最初の頃は驚きと悲しみと悔しさで胸が痛む日もあったけれども、いつの日かそんな痛みすら薄れていった。
「…最近、朝苦手なのに登校すんの早くねぇ?ひょっとして何かあった?」
1週間ほど前、病院からの帰り道に三ツ谷からかけられた凛子を心配する言葉。
「…んー?ちょっと音楽の先生に頼まれごとしちゃって、朝お手伝いしてるんだー。ほら、秋って音楽のコンクールとかも多いし。」
凛子が三ツ谷を心配させたくないとついた小さな嘘。
「……そっか。なんか俺に手伝えることあったら遠慮なく言ってな。」
そう言って心配そうに笑った三ツ谷の笑顔が、凛子の胸にひどく焼きついていた。
「タカちゃんに縋っちゃダメ。自分で戦わなきゃ。」
凛子は、小さな溜息をついた後、頭を一振りすると、またゴシゴシと机を擦り始めた。