I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
翌朝、下駄箱を開ければ、
死ねとかブスとかクソビッチとか、そんな悪意に満ちた言葉が綴られた紙が零れんばかりに充満していた。
「…え。」
「……椿木さん?どーした?」
中々後ろをついてこない私に気が付いたタカちゃんが、こちらを不思議そうに振り向く。
私はタカちゃんに気付かれないように、急いで下駄箱の扉を閉じた。
「…ごめん、タカちゃん、ちょっとトイレ寄ってから教室行く!先に行ってて!」
そう言って笑って見せれば、タカちゃんは少し考えるような素振りをした後で「りょーかい。」と言って歩き出した。
タカちゃんが見えなくなるのを確認すると、私は再度下駄箱の扉を開ける。
「………ハハ、なんだこれ。こういうのホントにあるんだ。」
私は、異様な下駄箱の中身をただ茫然と見つめていた。
「…ちょっと凛子!!!何これ、いつからこんなことされてんの?!」
そこへやってきたのは、ひどく驚いたようなひどく怒ったような、そんな顔をした優美ちゃん。
「…流石にこんなことされたのは今日が初めてで…ちょっとびっくりしてる。」
「……ああもう、何でそんな呑気なの!?今ゴミ箱持ってくるから!ちょっと待ってて!」
今自分に降りかかっていることを上手く飲み込めずに立ち尽くしていれば、優美ちゃんが痺れを切らしたようにその場を後にした。
数々の暴言が書き記された小さな紙きれを一つ一つ取り出していけば、あることに気が付く。
「…これ、全部、誰か1人が書いてる?」
よく見てみれば、全部同じような筆跡。
丸みを帯びた可愛らしい字を見る限り、誰か1人の女の子が書いたらしいことがわかった。
「ほら凛子、持ってきたから!こんな胸糞悪いのビリビリに破って早く捨てちゃお!」
優美ちゃんは私の手から紙切れを奪い取ると、その他の紙切れたちと一緒にビリビリと破ってゴミ箱に放り投げた。
「……これでよしっと。凛子、ほんとに大丈夫?」
「大丈夫大丈夫!それに、こーゆー時は毅然としてなきゃダメって、お姉ちゃんに前言われたし!」
「……そっか。でも辛い時は辛いって言わなきゃだめ。わかった?」
「ハハッ、わかったわかった!ありがとね、優美ちゃん!」
真剣な瞳でこちらを覗く優美ちゃんの姿が、何だかお母さんみたいで私は笑みを一つ溢した。