I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
正直なところ、俺は最近、ひどく頭を抱えていた。
体育祭が終わってからというものの、椿木さんの人気は爆上がりした。
それは良くも悪くもで、単純に椿木さんに惹かれてアプローチをかけようとする奴、どっかの誰かが流した良からぬ椿木さんに関する噂を面白く捉えた興味本位の奴、そんな話題の人物に嫉妬に駆られた女子生徒たち、色んな想いを持った奴らが椿木さんを取り囲むようになった。
どっかの誰かが胸糞悪い噂を流していることは間違いなかったし、椿木さんが平気なフリして酷く傷ついていることは手に取るようにわかった。
わかっているのに、椿木さんに対して何もしてやれない自分の無力さに酷く苛立っていた。
だからこそ、学校にいる間だって、ありもしない言葉の暴力を浴びる椿木さんを傍で守ってやりたいのに、困ったことに俺は西園寺詩織という一つ上の先輩に妙に懐かれるようになっていた。
きっかけは、詩織さんと彼氏の恋愛相談に乗ってやったこと。
何となく大丈夫大丈夫と口癖のように零す彼女の姿が椿木さんと重なって…放っておけなくて話を聞いてやった、それだけのことだった。
それからは、俺に謎に懐き出した先輩を無下に扱うことも憚られ、学校生活を送る上で、俺と椿木さんの時間はないに等しくなっていた。
どことなく蛇に身体中を這いずり回られているような気持ちの悪い感触が俺を襲う。
まさかな、なんて思いながらも、何の確証もないのに彼女のことを疑うのはよくないよなと俺はふと浮かんだ思考に蓋をした。
突然召集がかかった集会でさえも、上の空。
男だけの世界だったら気に入らない奴なんて一発ぶん殴って終わり、なのかもしれないが、きっと女社会というやつはそうじゃない。
どうしたものかと吐いた小さな溜息が、綺麗な夜空に消えていった。
単車に跨っても考えるのは椿木さんの事。
今の俺と椿木さんを繋ぐのは、学校が終わった後の少しの時間だけ。
お互いの家を行き来して、妹達の面倒を見てもらったり、飯を一緒に食ったり、そんな他愛もない、でもかけがえのない一瞬一瞬だけがお互いの存在を確かめ合う唯一の時間だ。
でも、この時間がある限り、きっと2人はまだ大丈夫。
そう俺は自分自身に言い聞かせていた。