I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
「昨日のお礼に、ほんの気持ちだけどクッキー焼いてきたんだ~♪よかったら食べて!」
「え?マジ?別にあん位気にしねぇでいいのに。」
廊下側の一番前、嫌でも耳に入ってくる目の前でニコニコと和やかに話す2人の会話。
「いやいや!隆くんってば、傷の手当も上手だし、聞き上手だし、ほんと心救われたって感じ!あの後、彼氏にも電話でちゃんと謝れたよ、ほんとありがと~!」
「ハハッ、そりゃよかった。まー相談くらい、いつでも聞くから。また何かあればどーぞ。」
私はモヤモヤと不快な感情に襲われながら、次の授業で使う資料集をとるため、席を立った。
「…ちょっと凛子!何あれ!」
教室の後ろのロッカーを開こうとすれば、駆け寄ってきた優美ちゃん。
優美ちゃんが何あれと顎で指すのは、私が逃げてきた現場のこと。
私は大きな溜息をついた。
「何あれって…タカちゃんと先輩。」
「…いやそりゃそうだけど、何で三ツ谷君が西園寺詩織とあんなに仲良さそうなのかって聞いてんの!」
眉間に皺を寄せながら、ヒソヒソと私に耳打ちする優美ちゃんに、私は事の発端から今に至るまでを話して聞かせる。
「……うわぁ、そうだったんだ。…こりゃまた厄介な女に目つけられたねぇ…。」
「厄介な女?ってか、何で優美ちゃんそんな詳しいの?同じ部活の先輩とか?」
隣で難しい顔して腕を組んでいる優美ちゃんに疑問をぶつければ、「はー?まさか凛子、西園寺詩織のこと知らないの?!」とアリエナイ!といった表情をこちらに向けた。
「有名なギャル誌で、絶賛人気急上昇中の読モだよ!モデル事務所とか芸能事務所とかとのコネクションもあるって噂!」
「…へぇ~どうりで可愛いわけだ。…でも、何でそんな人気者の彼女が厄介な女になるわけ?」
未だに仲良さそうにタカちゃんとニコニコと話している西園寺詩織、もとい西園寺先輩を見つめて、優美ちゃんにそう問いかける。
そうすれば、優美ちゃんはまたコソコソと話し出した。
「…何でも自分が欲しいものなら何が何でも手に入れる女豹みたいな女だって話。
それに西園寺詩織に楯突いた子はみーんな病んで不登校か転校になっちゃったって話……とにかくおっかない女ってことは確かなわけ。
…はぁ~よりによって三ツ谷君…あぁ~嫌な予感しかしないわ…」
そう言って優美ちゃんは頭を抱えた。