I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
次の日、HRを終えた頃、昨日の先輩が教室に顔を出した。
「あ!昨日の子だ!昨日はぶつかっちゃった上に情けない姿見せてごめんね~。」
そう言うと、昨日の泣き顔とは打って変わって、ニコニコと明るい笑顔を咲かせた先輩。
その表情に少しホッと胸を撫でおろし、再度謝罪の言葉と共に頭を下げれば、先輩は「いーっていーって!前見てなかった私が悪いし!」と言って笑った。
なんだ普通にいい先輩じゃん、昨日の変な胸騒ぎはやっぱりただの気のせいかなんて、ホッと胸を撫でおろすのも束の間、
「…その…隆くん、いる?」
そんな先輩の言葉によって、私の胸は再びドクンドクンッと嫌な音を立てた。
「………タカシ…くん?」
突然耳に飛び込んできた聞き慣れない名前に、目を大きく見開く。
「あー、ごめんごめん! " お友達 " にはあんまり名前で呼ばれてないのかなぁ?昨日一緒にいた三ツ谷くんのこと!」
「あ、あー…三ツ谷くん…!…今…呼んできますね!」
…………え? ” 隆くん " ってなに?
それに、” お友達には ” ってどういうこと?
私はザワつく胸を抑えながら、タカちゃんの元へと足を向けた。
タカちゃんを先輩の元まで連れてくれば、タカちゃんは
「おー、詩織さんじゃん。どうしたんだよ、2年の教室なんか来て。」
と言って、笑った。
” 詩織さん ”
へー、あの先輩、詩織さんっていう人なんだ。
私は、昨日あの後、朝のHRが終わる頃に帰ってきたタカちゃんの言葉を思い出す。
『何か大丈夫大丈夫って椿木さんみたいで放っておけなくてさ。結局話聞いてやってたら、こんな時間になっちまったわ。』
遅くなったと言っても、たかが朝の20分程。
2人は初対面。
そんな2人があんな短時間で、名前で呼び合う程、仲良くなるもの?
自分よりも詩織先輩という先輩の方がタカちゃんと仲が良いような、そんな錯覚を覚えそうになることに恐怖を覚えた。
たかが呼び方の一つ、されど呼び方の一つ。
私は、『タカちゃん』と砕けた呼び方で呼んでほしいと、そう口にしたあの日のタカちゃんの言葉の意味を、今になってようやく理解出来たような気がしていた。