I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
そして事件は起きる。それはそれは突然に。
ドンッ
「……キャッ!」
教室に向かって階段を上り始めた頃、階段を駆け下りてきた女子生徒の肩が勢いよく私の右肩にぶつかった。
そして、バタンッという誰かが大きく倒れ込んだ鈍い音が耳に響く。
「…あっぶね~、椿木さん大丈夫?」
「……ありがと、私は大丈夫…だけど……あの…ごめんなさい、大丈夫ですか?!怪我とかしてません?」
私の腕を咄嗟に掴んでくれたタカちゃんに礼を行って、階段の踊り場で「…いったぁ~…」と言ってうずくまっている女子生徒のもとへと駆けつける。
上履きの色からして3年生だと思われる彼女は、私が声をかけたことで、顔を上げた。
華奢で華がある顔立ちの彼女は、眉毛を下げて困ったように笑っていた。
「大丈夫大丈夫!いやぁこっちこそごめんね、どこかぶつけたりしなかった?」
「私は全然平気です…って、先輩膝擦り剝けちゃってるじゃないですか!私がぼーっとしてたから、ホントごめんなさい!こんな綺麗な足なのに…。」
「あれ、ほんとだー。でもこんなの全然大丈夫だから……大丈夫大丈夫……ってあれ?ごめん、涙止まんな…」
すらりと伸びた白い脚に血が滲んでいるのを見つけて勢いよく頭を下げていれば、先輩の瞳からは大粒の涙がポロポロと溢れ出した。
「…え、泣いちゃうほど痛いんですか?!えーーー!どうしよ、ほんとごめんなさい!…私おんぶして保健室まで連れてくんで!背中乗れます?」
「いや、それなら俺が代わるから、椿木さん。先輩、ほら乗って。」
私が背中を先輩に差し出そうとすれば、タカちゃんがそれを制止して、先輩に背を差し出した。
「…っ・・・・ひっく…ごめ…ん、違くて…さっき彼氏とケンカしちゃって…だから、ほん…とだいじょ…ぶ…」
大きな瞳から零れ落ちる大粒の涙を拭うようにゴシゴシと目をこする先輩。
大丈夫大丈夫、と口癖のように口にする名も知らない先輩の姿が目に焼き付いて、
まるで自分自身を見ているようで、酷く心が痛んだ。