I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
そんな下らない話をしていれば、あっという間にスープと野菜炒めも出来上がり、ハンバーグを温めていたレンジからもチンッという明るい音が鳴り響いた。
「うわー、美味しそうー!はやく食べよ!」
瞳をキラキラと輝かせながら、綺麗にそれぞれがよそられた食器をお盆にいれてテーブルに持っていく椿木さん。
俺も後に続く。
「わー、いただきまーす!」
もぐもぐと美味しそうにご飯を口に運ぶ椿木さん。
俺も椿木さんの作ったハンバーグを口に運ぶ。
「ん、美味いな。」
「三ツ谷君の作ってくれたスープ、すっごい優しい味がするー!野菜炒めもシャキシャキしててすっごい美味しー!」
「はは、すげぇ褒めてくれんじゃん。喜んでもらえてよかったわ。」
お互いの料理を褒めあいながら、舌鼓をうつ。
椿木さんのハンバーグは、本と向き合いながら一生懸命作ったんだろうなっていうのが伝わってきて、美味さが上乗せされている気がした。
「……そう言えば、これ聞いていいのかわかんねーけど、椿木さん、家族はどうしてんの?」
暫し何てことない事で歓談した後、俺はずっと気になっていることを口にした。
仲の良さそうな家族写真のある家。
家に自分以外誰もいないといった椿木さん。
母親は入院中。
そうすれば、椿木さんは少し目を伏せた。
そして、言葉を選ぶように、ゆっくり口を動かし始めた。
「……実は去年、私のピアノのコンクールに向かってる途中、お母さんの運転してた車にトラックが突っ込んできてね…。みんな救急搬送されたんだけど、私が会場から知らせを聞いて駆け付けた時にはもう、お姉ちゃんと妹は手遅れで、お母さんは一命は取り留めたんだけど今も植物人間状態……。お父さんは、お母さんの治療費稼ぐために仕事頑張ってて最近はずっと帰ってこれてなくて……。」
そこまで言うと椿木さんは「重い話しちゃってごめん!」と困ったように笑った。
「…悪ぃ、嫌なこと思い出させちまったな。」
気安くプライベートに踏み入った質問をしてしまったことに謝罪をすれば、椿木さんはまたニコッと笑って見せた。
「ううん、当時は本当に辛かったけど一年くらい経つからもう全然平気!」
まだ辛いはずなのに強がって見せる彼女の姿に、俺の胸はひどく傷んだ。